現在の科学技術では、気候変動に代表される環境問題に対して、将来の状態を確実に予測することは不可能である。例えば、2100年に全球気温が産業革命以前と比べて2度以上上昇する確率を確実に予測することはできない。一方で、政策に関する決定を現在しなくてはならない。そのため、不確実性下における理論整合的な政策評価を行う枠組みを提示することは重要な課題である。本研究の目的は、将来の状態の確率分布を一意に確定できない曖昧性下において、政策による厚生変化を実証的に計測する枠組みを提供することである。
本年度は、将来の状態を確実に予測できない状況下での政策評価を行うために、気候変動政策を対象として、webアンケート調査による二項選択実験を行った。実験では、政策を実施した場合としなかった場合において、2100年における全球気温が2度以上上昇する複数の予測確率を示し、それらに対する主観的二次確率分布を抽出した。そして、その主観的確率のもとで、気候変動政策に対する選択実験を行った。以上の調査から得られたデータをもとに、曖昧性下での効用関数を推定し、気候変動政策による厚生変化を実証的に計測した。実証モデルは曖昧性下における代表的な意思決定モデルを基礎とした。
結果として、意思決定主体は曖昧性回避の態度をもち、将来の状態に対する曖昧性が減少すると厚生が向上することが明らかとなった。また、従来までの意思決定モデル(主観的期待効用モデル)では、誤った政策評価をしてしまう危険性があることが明らかとなった。今後は、代替的な曖昧性下での意思決定モデルに基づく実証モデルを構築し、結果の頑健性の検証を行っていく。
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