本研究は、集積の外部経済のメカニズムを解明するため、特に知識波及に注目し、知識波及の地理的特性とその効果を分析した。公開特許の発明者所属組織の住所を用いて、マイクロ立地データ(緯度経度情報)から算出した距離ベースの指標を作成し、立地特性、共同研究における地理の重要性を測定した。 知識生産活動は、他の経済活動より集積度が強く、高度な技術を持つ企業、生産的な企業ほど、集積することが確認された。また、共同研究の効果については、地理的特性とともに、組織間の知識の類似度との関係が強く、特許の質との間に逆U字の関係があり、共通知識による組織の知識の吸収能力および異なる知識の存在がともに重要であることが確認された。 さらに、発明者レベルの組織間の異動を特定し、流動性の高い組織の方が、流動的でない人の生産性も高くなることが観測され、流動的な発明者から組織内の他の発明者への知識の波及があったことが示唆された。集積の外部経済として、知識波及だけでなく、取引関係による効果も測定し、企業のパフォーマンスとの因果関係など、多面的な評価も行った。 分析結果は、学会や国際ワークショップなどで報告するともに、所内のワーキングペーパーとして公開している。また、3本の論文について学術雑誌への投稿を行っており、そのうちの1本はJournal of Political EconomyのR&Rの段階である。書籍の1章としても、研究成果をまとめている。 また、学術的なワークショップだけでなく、政策実務に関わる組織においても招待講演などを行い、政策アドバイザーを務めるなど、本研究成果による社会への貢献が出来たと考えている。
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