本研究では健康保険組合の組合別パネルデータを用い,健康保険料の事業主負担の賃金への転嫁の大きさを推定した。先行研究では,被説明変数が賃金の対数値,説明変数の一つに事業主の保険料率を含む賃金関数が推定されることが多いが,被説明変数から説明変数への逆の因果によって,転嫁の大きさを正確に推定できない可能性がある。そこで,本研究では,総報酬制導入による事業主保険料負担の外生的な増加を利用して推定を行った。その結果,事業主負担の多くが賃金の低下を通じて労働者に転嫁されることを示唆する結果が得られたものの,企業は負担の転嫁をすぐには行えず,時間をかけて徐々に転嫁している可能性が示唆された。
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