平成27年度には2つの研究を遂行した。1つは,前年度に引き続き,学級規模(クラスサイズ)の縮小が児童・生徒の学力に与える影響に関する研究である。分析の結果は以下の2点に集約される。中学3年生の国語と数学を対象とした回帰分析の結果,学級規模の縮小は学力の向上に対して統計的に有意な効果をもつことが明らかとなった。効果の大きさは,学級規模5人縮小によって正答率が最大で0.09標準偏差上昇するというものであった。次に,平均SES(社会経済的背景)が低い学校と高い学校にサンプルを分けて推定をおこなった。その結果,平均SESが低い学校において学級規模の縮小が学力の向上に有意な影響を与えているのに対し,平均SESが高い学校では有意な学級規模効果は確認されないことが明らかとなった。この結果は,社会経済的に不利な状況に置かれている学校において学級規模縮小の効果が大きいことを示すものであり,教育政策の公平性の観点からも興味深い結果である。この分析結果は,本研究課題を総括するものとなっていると考えている。分析結果を含む論文は『国立教育政策研究所紀要』に掲載される予定である。 2つめの研究は,数学学習の男女差に関する日米比較研究である。分析には2種類の国際学力調査を用いた。分析の結果,日米ともに数学の学力や学習態度に男女差が確認され,特に学習態度については日米間で顕著な違いがみられた。日米ともに第4学年では女子のほうが否定的な回答をする傾向が確認されたが,その傾向は米国の第8学年では縮小し,日本の第8学年では拡大していた。数学の有用性に関する設問に対して,米国の生徒は肯定的な回答をする傾向が明らかに強く,同時にこれらの設問に対する回答の男女差が日本の生徒に比べて小さいことが確認された。本研究の成果は『新潟大学経済論集』に掲載された。
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