本研究の目的は,就労可能な低所得者に対してどのように再分配すればよいかという問題を理論的に検討することである。グローバル化の進展や非正規労働など雇用形態が多様化する中で,低所得者向けの再分配政策を再考する必要がある。そこで本研究では,家計の労働供給行動として就業選択行動を採用したMirrlees型の動学的最適所得税モデルを構築し,誘因両立的な所得再分配政策を提示する。 平成26年度も,2期間モデルの下で,就業選択行動の一種である非分割可能な労働を想定し,各期で労働生産性(労働選好)が確率的に変化する状況を想定した。その上で, 1.平成25年度の研究では,先行研究と異なり,次善の配分を遂行するための政策手段として資本所得税を考慮しなかった。そこで,平成26年度は同様のモデル設定の下で,労働履歴に依存しない比例資本所得税を導入した場合に次善の配分を遂行できるかを検証した。その結果,資本所得税の導入は結果を大きく変化させず,労働履歴に依存しない労働所得税と資本所得税では,次善の配分を遂行できないことを明らかにした。 2.上記の研究成果は,「動学的最適性と遂行問題―労働所得税と資本所得税―」として『経済研究』19巻1号に掲載された(片岡孝夫氏との共著)。 3.平成25年度の研究成果を踏まえ,“Dynamic optimal income taxation with indivisible labor: The roles of the public pension system and a limited times benefit to low-income households.”(片岡孝夫氏との共著)を日本経済学会2014年度春季大会(同志社大学)で報告した。さらに,学会報告での議論や意見交換を踏まえ,数値計算の頑健性についても検討を加えた。今後も海外雑誌への掲載に向けて投稿を行う。
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