研究課題/領域番号 |
25780192
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小西 萌 東京大学, 経済学研究科(研究院), 助教 (30589578)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 所得 / 健康 / Quantile Regression |
研究実績の概要 |
平成27年度には、「国民生活基礎調査(CSLCJ)」データに基づいて、所得と健康状態の相関関係をより厳密な計量手法を用いて、年齢、性別、世帯構成、雇用形態などの要因を考察した上で分析を行った。所得と健康は所得のレベルによって違うメカニズムを通じて影響し合うことが考えられているので、近年注目されつつある Unconditional Quantile Regression (UQR)と言う新しい統計手法を使って、従来の Quantile Regression(QR)の問題点を克服したうえで、所得と健康の相関関係を所得分布の分位点に沿って推定した。その結果、①低所得層の健康である人と健康ではない人の間に所得の格差が大きいこと、②より厳密なUQRで推定した格差が従来のQR手法で推定した結果より大きいことを明らかにした。所得が高くなればなるほど、その格差が小さくなっていくパターンが見られた。第二には、性別や雇用状態などをコントロールした上で、所得と健康状態の相関関係は年齢に応じて高まり、60歳ごろにピークを迎え、その後減少していくパターンが見られるが、そのパターンは高所得層に顕著ではないことを分かった。逆に、高所得層には中高齢者より若者の所得の方が健康状態に大きく依存している。第三には、累進課税と個人が負担する社会保険料の影響を分析するのには可処分所得にも注目した。分析結果は健康である人と健康ではない人の間に可処分所得で計算された格差は税引前所得で計算された格差と大きく変わらなく、所得再分配が健康状態による所得格差にあまり機能していないことを示した。第四には、1人当たりの家計消費支出(医療費抜き)と健康状態の相関関係を分析したところ、低所得層には健康である人の方が比較的に高い収入を得られるために支出は多いが、高所得層には逆パターンが見られ、健康ではない人の方が支出は多くなることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度には日本における健康状態と所得の因果関係の分析を始める計画であったが、因果関係を推定するのに用いられる予定である操作変数に問題(弱相関の操作変数の問題など)があることで、その計画通りに実証研究結果を出すことができなかった。その一方、日本における所得と健康の相関関係をより厳密な統計手法で豊富かつ有意義な結果を出すことができたから、「やや遅れている」という自己評価とさせて頂いた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、所得と健康の因果関係を分析するのに、メタボリック法の導入(2008年)を利用して、健康診断が健康状態及び所得に与える影響を分析する予定である。また、これまでの研究結果を纏めた論文を完成させ、学会や研究会などで発表し、経済産業研究所のディスカッション・ペーパーにする。同時に、学習院大学の乾友彦教授、上智大学の小西祥文准教授、東北大学の井深陽子准教授、早稲田大学の野口晴子教授、名古屋大学の中村さやか准教授などとも意見交換する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
都合が良くなかったため、国内外の学会発表を見合わせたことから予定していた旅費を使用しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
実証研究のための参考図書や学術雑誌、分析用の統計ソフトウェアなどを購入する予定である。データ整理・分析に手伝える学生を雇う人事費もかかる。また、研究計画の一部として国内外の学会での論文発表を予定しており、渡航費等の捻出が考えられる。最後に、学術雑誌への投稿にあたり、英語の翻訳費と投稿費も必要となるものと予測される。
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