平成29年度の研究実績は主に下記の2点があげられる。①平成28年度に行った健康診断の健康状態に与える影響についての分析を掘り下げて、より緻密な分析を行った。健康診断が重大な病気の兆候の発見、予防に結び付くとするならば、健康診断の普及は患者への早期治療等を可能としその重篤化を防ぎ、結果として社会全体の医療費の増加を抑えることが期待される。しかし、健康診断の受診行動は健康状態、年収や労働状態などの個人属性に影響されるので、健康診断の健康状態に与える影響を推定するのは極めて困難である。そこで本研究は40歳から対象年齢になるという制度の特徴を持つ特定健康診査制度の導入を利用して、近年欧米でも注目されている回帰不連続デザインの手法により分析し、健康診断の内生性問題を解決した。分析の結果、特定健診の導入が健康診断全般の受診率を高めたものの、健康状態の向上、喫煙習慣、医療費の支出等には明確な効果は認められないことが判明した。②本研究の最終段階として、長時間労働がメンタルヘルスに与える影響を分析する次の研究プロジェクトの準備を行った。先行研究では労働供給は個人の健康状態に重要な影響を与えることが確認されてきた。ほかの主要先進国と比べ、日本の長時間労働の割合はかなり高くて、労働者の健康の阻害につながる可能性が指摘されており、長期的に労働生産性を低下させる危険性が考えられる。日本における長時間労働の身体的健康、精神的健康と生活習慣に与える影響に関して分析するために、国民生活基礎調査のデータの申請を行い、本研究の延長線上にあるプロジェクトに繋げることができた。
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