平成26年度は、国民生活基礎調査を用いて乳幼児医療費助成制度が子どもの健康指標(入院確率、患者の自覚症状)に影響を与えるのか分析を行った。もっとも重要な結果は、小学生への助成拡大が健康状態の改善に寄与していることを示す結果は、すべての指標で得られなかった点である。近年の助成拡大はこの年齢層を対象として行われてきたが、健康上の利得という面ではメリットの低い政策だった可能性がある。一方、未就学児については、具体的な因果経路は不明であるものの一定の健康効果が確認された。しかし確定的な結果を得るためには因果経路の特定が必要であり、引き続き検討が必要だと考えられた。次に重要な結果は、すべての年齢層で入院に対する効果がなかった点である。国際的にも、外来診療の自己負担を引き下げることで予防的な通院が増加し、結果として入院に至るような重症化を防げる可能性が注目されていることを踏まえると、未就学児と就学児ともに入院確率の減少をもたらすほどの大きな健康上の利得は観察されなかった点は重要である。この点に関連して、入院に対する影響は健康に関連する政策を評価するための指標として重要であるだけでなく、レセプトデータを用いれば把握が比較的容易な変数でもある。今後、大規模なレセプトを用いた類似の研究を行い精緻に検証する必要があるだろう。加えて、現時点ではレセプトデータの利活用は十分に進展しているとは言えない。レセプトデータが医療費助成のような政策を評価するのに際しても非常に有効なデータソースであることを踏まえて、今後の利活用の進展が望まれた。以上の研究成果は、ダブリンにおける国際医療経済学会で平成26年度に発表され、またアンケートに協力していただいた市区町村と都道府県へは報告書として配布された。
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