最終年度にあたる今年度は、金融ネットワークだけでなく経済現象にも応用可能となる新たな情報拡散モデルの構築を主に行った。これまでの情報拡散モデルはネットワーク上の局所的な情報(取引先の破たんや友人とのコンタクト)の変化を通じて情報や現象が拡散していくモデルであり多くの金融危機や感染モデルのベースとして利用されてきたが、そこにグローバルな情報に基づいて行動する主体を導入し、拡散過程が定性的・定量的にどう変化するのかを解析した。 これまでのように局所的な情報を基に行動するノードをlocal nodeと呼び、大域的な情報に基づいて行動するノードをglobal nodeと呼ぶとすると、ネットワーク全体でglobal nodeの割合が変化することによって拡散過程が大きく変わることを示した。具体的には、ある程度のglobal nodeが存在する場合にはsaddle-node分岐と呼ばれる分岐現象が現れることを発見した。この分岐が存在すると、ネットワークの密度がある程度までは拡散が広がりにくい安定的な状況となるが、ある閾値を超えると急激に(不連続に)拡散が大きくなる。その程度はglobal nodeが存在しない場合に比べて大きくなることから、情報拡散を効率化したい場合を考えればglobal nodeがある一定程度いることが望ましいことが示唆される。 また上記のテーマに加えて、今年度はネットワーク上の重要なノードをいかに効率的に抽出するかという問題にも取り組んでいる。これらの研究が進むことで、金融ネットワークをはじめとする経済系ネットワークに対する理解が進み、より安定的なネットワークを維持するための政策的な含意も導くことができると期待される。
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