本年度は日本企業のコーポレートガバナンスメカニズムの変化がコーポレートガバナンスの効率性に及ぼした影響について分析し、その成果を論文としてまとめた。日本企業のコーポレートガバナンスは1990年代以降、メインバンクを中心とした体制から大きく変化した。株式所有構造は持ち合いを中心とした内部者による株式保有が中心であったが、1990年代後半以降、持ち合いの解消が進み、機関投資家、特に外国人機関投資家の株式保有が増加した。取締役会に関しては、かつては内部者のみで構成されていたが、2000年代後半以降、多くの企業が社外取締役を任命するようになった。これらの変化がコーポレートガバナンスの効率性にどのような影響を与えたのかを明らかにすることを目指した。コーポレートガバナンスの効率性を判断する指標としては経営者交代に注目した。なぜならコーポレートガバナンスが機能していれば、経営者の意思決定の結果として業績悪化が悪化すれば、経営者が責任を問われ交代させられると考えられるからである。本研究では1990年から2013年までの24年間の東証1部上場企業の経営者交代の決定要因を計量的に分析した。分析の結果、一貫して業績が悪化すると経営者が交代するという関係が確認できた。この結果は1990年代後半以降のメインバンク関係の後退後もコーポレートガバナンスに空白が生じなかったことを示していると考えられる。しかしながら、経営者交代が反応する業績指標は利払い前の利益を示すROAから、利払い後の利益を示すROEや株式投資収益率に変化していた。つまり経営者は株主の利害を損なった場合に、交代させられる確率が上昇することになり、より株主の利害を尊重した経営をするインセンティブが生じていたのである。この傾向は、外国人機関投資家、特に3%以上の株式を保有する単一の外国人機関投資家がいる企業で強かった。
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