研究課題/領域番号 |
25780208
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
豊福 建太 日本大学, 経済学部, 教授 (60401717)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 決済手段 / 価値尺度 / リスク分担 |
研究実績の概要 |
本年度は、債務を用いた決済手段と貨幣を用いた決済手段を内生的に選択できるとき、人々が貨幣を用いることを示し、価値尺度としての貨幣と交換手段としての貨幣のあり方を理論的に示すことができた。その際、人々は債務を用いた決済手段では、債務価値の変動によりリスクを受け取ることになる反面、貨幣では人々の間でのリスクシェアリングができるため、貨幣が金融資産として用いられるようになったことを示した。その結果、人々が多様な金融資産を保有してリスク分散をはかるインセンティブを持つ反面、共通の資産を持つことによってリスクを分担しようとする相反するインセンティブを持つことがわかった。これらの成果は、既存の研究において、貨幣の意義がサーチコストや情報の非対称性などの市場の歪みから発生していることや、既に貨幣が存在している中で決済手段や価値尺度としての貨幣が考えられているのに対し、本研究ではそうした条件を考慮せず、人々の内生的な金融資産選択の結果として導きだしているため、結論の頑健性という観点から優れているものと考える。以上の研究成果は、2016年度のAsian meeting of the econometric society in Kyoto において発表され、参加者から貴重な意見を得ることができ、更なる精緻化を図っていく予定である。また、こうした理論的帰結は、金融危機における資産の質への逃避やそこから波及する資産価値の変動という点も明らかにできる可能性があると考えており、そうした分野への応用も考えていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初考えていた金融危機のメカニズムにおいては、決済手段のあり方とそれがもたらす市場への影響という観点を考慮していなかったが、リーマンショック後の金融危機や不良債権問題後の日本の金融危機などにおいて、決済手段のあり方や流動性の観点から見た金融資産のあり方などを考慮する必要があると研究を進めるうちに思い至るようになった。そうした観点から消費者や企業の資産選択のあり方をより現実に即した形で考慮した理論分析を行うようになった。しかし、貨幣と債務証書の決済手段としての違いを研究の中で明らかにし、資産の持つリスク分散とリスク分担のトレードオフという考え方が既存研究にはなかったにもかかわらず、これまでの金融危機や今後の金融行政や金融規制のあり方に対して有益な示唆を与えることができると考えられるため、そうしたテーマについて取り組んできた。その結果、金融危機後に見られる安全資産への質への逃避という現象が、かえって資産のリスク分散機能を弱め、大きな変動を起こす可能性があることがわかった。このように、決済手段としての金融資産のあり方を考慮することで、当初よりもやや遅れてしまったが、より現実的でかつ新たな理論的発見を見いだせるものと考えており、今後の研究によってそれらを明らかにしていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、まず、貨幣の持つリスク分担機能から貨幣が人々の間で勝ち尺度として用いられるのと同時に決済手段としても用いられるという点を``The benefit of common currency"という論文にまとめ、6月のWestern economic association international (at Sandiego) において報告する予定である。さらに、リスク分散とリスク分担のトレードオフの観点から、まず最適通貨圏のあり方について明らかにしていきたいと考えている。すなわち、自国民が自国財をより需要するようなホームバイアスがあるとき、自国民は共通通貨圏を構成するよりも、自国通貨が流通する経済を望むということを示す。また、この考えを応用し、金融機関の資産選択についても考える。すなわち、経済に何らかの負のショックが与えられたとき、各金融機関がより安全な金融資産を選択するという質への逃避が起きることで、金融資産間のリスク分散が失われ、その結果として各金融資産の資産価格が暴落し、それが担保価値の現象を通じて金融危機を引き起こすというメカニズムを明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、研究過程において、決済手段としての金融資産のあり方を考慮した金融危機のあり方を考慮した理論研究を進めることが、より現実的で精緻な理論モデルを構築する上で必要であることがわかり、こうした点に関しての研究をする必要が出たため。ただし、昨年度の研究の進捗により、安全資産の持つリスク分担機能というものを用いれば、当初考えていた構想をより具現化できるため、本年度はそれらの研究を進め、学会などでの発表や、実際のデータの収集などによって金融危機のメカニズムを明らかにしていきたいと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
まず、6月にこれまでの研究成果をWestern economic association international at Sandiegoにおいて報告するため、その滞在費や学会参加費などを計上する。夏以降も研究成果を報告するため、内外の学会や研究会などに参加する。そのための費用も計上させていただく。また、論文を書き上げ、その校正の費用や論文投稿料なども考慮している。その他、資料収集にかかる経費や書籍代、また内外の金融機関の金融資産保有の現状を調べるためにデータの収集などにかかる経費も必要である。そうした統計的な分析を行う上でより大容量のデータを扱う必要が出てくるため、パソコンなどの情報処理の経費も考えている。
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