この研究の目的は、国有銀行が企業のイノベーション活動に与える影響を分析することである。政府が企業のイノベーション活動に介入することを支持する研究では、国有銀行による資金提供を通じて、イノベーションを行う企業とほかの金融機関との間で起こっている情報の非対称性を緩和することができ、さらに企業が持つ知識のスピルオーバー効果も得やすいと主張している。一方で国有銀行などの政府の介入が企業のイノベーションに負の影響をもたらすと主張している研究では、まず政府にはイノベーション活動を促進する十分な能力がないことを問題視する。また、借り手にモラルハザードが発生する可能性がある上に経営者がイノベーション活動よりレントシーキングに注力してしまう傾向があることを指摘している。しかし、これまでの研究は主にマクロデータを用いた研究であり、より緻密な結果を得るためには、企業レベルのデータを用いた分析が必要である。 本年度は技術輸入の観点から、国有銀行からの資金調達が企業のイノベーション活動に与える影響について分析を行った。具体的に以下の三点を中心に研究を行った。第一に、中国の技術輸入に関連する制度と政策、国有銀行からの資金受け入れなどの実態について、文献調査を行った。第二に、企業の技術輸入に関する理論研究と分析方法について研究した。第三に、技術輸入の制度の変更を考慮しながら、国有銀行からの資金の受け入れなどの技術輸入の要因を分析し、企業のパフォーマンスへの影響についても分析を行った。分析の結果として、まず、銀行や政府からの資金のある企業ほど技術輸入を行う傾向にあるが、国有企業が技術輸入を行わない傾向にあることが示された。また、企業の生産高、売上およびR&D支出に対する技術輸入の影響は大きいことと、技術輸入が企業のR&D支出に与える影響は、ハイテク産業において最も大きいことが分かった。
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