本年度は、前年度までの分析結果を論文にまとめた。おもな結論は以下である。(1)いずれの景気局面でも、企業間の資金再配分(credit reallocation)は相当規模で生じており、企業の資金調達行動は非常に異質である。(2)credit destructionの変動はcredit creationよりも大きく、credit creationにはサーチやスクリーニングといった様々な調整費用が生じるとする理論予測と整合的である。(3)日本企業の資金再配分の水準は1990年代に急激に低下しており、この時期に貸出市場の資金再配分機能が著しく低下していたとする仮説と整合的である。(4)日本企業の資金再配分は景気変動と有意な相関をもち、credit reallocationは景気と順相関(procyclical)である。(5)中小企業の資金再配分は景気変動と有意な相関をもたず、深刻な情報の非対称性の問題によって、景気拡張期の正の需要ショックに対してcredit creationが即座に反応していない可能性がある。 本論文は、独立行政法人経済産業研究所、一橋大学経済研究所HIT-REFINEDのディスカッションペーパーとして公表済みである。現在は、学術雑誌への投稿にむけて、研究会等の報告で得られた助言にもとづき、以下の修正・追加分析を行っている。(1)『法人企業統計季報』のサンプル母集団の偏りを修正する母集団復元。(2)セクター(業種・地域・規模)ごとのbetween effectとwithin effectの分解。(3)aggregate/ sectoral effectとidiosyncratic effectの分解。以上の修正・追加分析を論文に反映させたうえで、最終的に学術雑誌に投稿する予定である。
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