研究課題/領域番号 |
25780218
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研究機関 | 札幌学院大学 |
研究代表者 |
大場 隆広 札幌学院大学, 経済学部, 准教授 (40614194)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 企業内教育 / 養成工 |
研究実績の概要 |
本研究は「養成工」と呼ばれる労働者を研究対象としており、「養成工」とは「戦後の新制中学(戦前は小学校)を卒業後、その費用と給与(奨学金)を企業が負担する、座学と実習からなる3年程度の企業内教育を受けた技能者」のことである。本研究(養成工研究)の目的は、第一に戦後日本の製造業発展の原動力を探ることであり、第二に今後の日本を左右する技能の継承問題、海外の人材育成問題の解決に寄与することである。まず、戦後一貫して現在まで養成工教育を存続させている三社(トヨタ自動車、デンソー、日立製作所)を事例に、設立当初から現在までの養成工の役割を明らかにし、養成工の役割についての、企業間・産業間の共通点と相違点を確認する計画である。 研究成果としては以下の3点が挙げられる。まず第一に、養成工を含めた戦後の企業内学校の数量データの蓄積が進んだことが挙げられる。収集できた年度は限られるものの、労働省が実施した調査資料を収集することができ、これによってどの地域のどの企業がどのような企業内教育を実施していたのかを量的に把握できるようになった。 第二に、電気機械メーカーの日立製作所に関する資料の蓄積が進んだことがあげられる。特に日立製作所の労働組合に関する資料と、養成工の資料を収集できた。 第三に、既に収集したトヨタ自動車の養成工とデンソー養成工の資料に、新たに収集した企業内学校のデータ、日立製作所の資料を加えることで、「養成工教育を中心とした企業内教育は戦後のどの時期まで拡大したのか」「養成工の現場での意義はどのようなものであったのか」、「養成工は労使関係にどのような影響を与えたのか」について検討できる条件が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実施計画は、以下の通りであった。トヨタ自動車(トヨタ工業学園)、デンソー(デンソー工業学園)、日立製作所(日立工業専修学校)の研究資料の収集・整理・分析を中心に行う。効果的に研究を進めるために、各企業の養成工の「意識」、「昇進」、「配属」の三点に焦点をあてて、養成工の実態を解明する。「意識」は雑誌記事や社内報記事で探り、「昇進」は論文・書籍・雑誌記事、社内報に掲載された人事異動データと社内報・卒業記念集に掲載の養成工名簿の照合で明らかにする。「配属」は論文・書籍・雑誌記事、学校史、企業から提供を受けた社内資料に基づいて検討する。また収集できた資料から養成工の活用事例を総合し、養成工の役割(機能)をラインの製造・保全や新製品の試作などの「開発機能」、生産現場での労働や工場管理などの「生産機能」、養成工の技能教育および企業内全体の技能教育などの「教育機能」、海外工場への技能指導やライン立ち上げなどの「海外支援機能」の四つに整理・分類する。その上で、養成工の多面的な働きや企業ごとの活用の違いも考察の対象にする。すなわち、一人の養成工が複数の機能を担うことはあったのか、重視する養成工の機能は企業によって異なるのかも検討する。分析に当って、まず完成車メーカーと部品メーカーの違いはあるが、同一の自動車産業に属するトヨタ自動車とデンソーの企業間比較から始め、次に自動車産業(トヨタ自動車、デンソー)と電機産業(日立製作所)の産業間比較を行う。 おおむね以上の計画通り、資料収集が進んだため、「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、トヨタ自動車(トヨタ工業学園)、デンソー(デンソー工業学園)、日立製作所(日立工業専修学校)の研究資料の収集・整理・分析を中心に行う。すなわち文献の購入と資料調査のための旅費・宿泊費等に助成金が用いられる予定である。同時に今年度は研究のまとめ、総括を行う予定である。 本研究計画には、資料収集・分析の日程に余裕を持たせることで、予想外の遅延が組み入れられている。分析は自動車産業内の比較(トヨタ自動車とデンソー)、自動車産業(トヨタ自動車とデンソー)と電機産業(日立製作所)の比較という順に進めていき、それぞれの比較が完了した時点で研究成果を発表していく。そのため、研究が当初の計画通りに進まない場合は、自動車産業内の比較に研究の重点を置いて、成果を発表する予定である。 また研究計画が予定以上に順調に推移した場合、研究対象をさらに拡張して、追加の企業調査を行う予定である。追加企業とトヨタ自動車、デンソー、日立製作所との比較を試みることで、考察をさらに深めることが可能となる。例えば、養成工教育を1973年にいったん中止して1991年に再開した日野自動車(日野工業高等学園)や、高校卒業者の技能教育を行っているマツダ(マツダ工業技術短期大学校)など、中学卒業者および高校卒業者対象の技能者教育・技術者教育を行っている企業などを調査対象として追加することもありうると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
飛行機、宿泊費などの調査旅費を節約したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、前年度に収集できなかった資料の調査を積極的に行う。資料収集および研究環境の整備のために助成金を使用する計画である。
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