これまでの2年間で、ベルリン・リヒターフェルデ連邦文書館および外務省政治文書館に所蔵されている山東鉄道に関連する未公刊史料を収集してきた。これにより、科研開始以前に集めたフライブルク連邦軍事文書館の関連史料と合わせて、山東鉄道に関するドイツ側の未公刊史料をほぼ揃えることができた。したがって、本年度は、山東鉄道事業と関連する物産に焦点をあて、史料調査を行うこととした。当初、ハンブルクにある東アジア協会文書館を訪問し、商社の動きを追う予定であったが、ドイツ製品のなかでも将来的に最も有望視されていた化学染料に関する史料を収集することとした。 今夏は京都国際会館で開催されたXIIth World Economic History Congressで本科研に関連するテーマの研究発表を行ったため、冬に史料調査を行った。2016年2月23日から3月1日にかけてBASF史料館を訪問し、19世紀末から第一次世界大戦までの化学染料の対中国市場輸出に関する史料を収集した。この時期は、まだ山東鉄道を経由する形でのドイツ化学染料の販路は開拓されていなかったが、華北・華中の海港都市を中心にドイツ化学染料は顕著な販売量の拡大を経験していた。それは華北鉄道事業への期待と結びついたものであり、有益な史料収集ができた。今後は分析を進め、積み残しの課題である史料紹介と論文を学会誌に投稿していく。 また、11月7日に、第15回日韓歴史家会議「植民主義と脱植民主義――世界史的視野」で「ドイツ植民地経済政策における世界的視野――山東落花生から考える」と題した発表を行った。これは山東落花生が20世紀初頭に欧米市場へ輸出された経緯を、青島におけるドイツ統治政策と山東地域社会の変容とを、山東鉄道事業とも関連づけながら論じたものである。
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