本研究の目的は、日本における石油化学工業の歴史的展開を明らかにすることである。それを通じて新興国の台頭、円高、震災などにより苦境に陥りつつある日本の製造業に関して、その再生の道筋に関するなんらかの含意を得ることを副次的な目標としている。日本の化学産業は、石油危機により成長産業から構造不況業種に転落したものの、現在では国内で最大の付加価値生産額を生み出す産業となっている。過去に大きな危機に直面したにも関らず、脱成熟に成功し再び成長を遂げた日本の化学産業の歴史的展開を精査することにより、帰納法的に日本の製造業再生への道筋を発見していくことが可能であると考えている。 研究課題の進捗状況は、計画を上回るペースで進展した。本研究課題における最終的な目標であった『石油化学工業史』の執筆を完了し、2016年7月に名古屋大学出版会より『日本の石油化学産業:勃興・構造不況から再成長へ』として刊行された。さらに同書の内容を踏まえ、産業政策の展開に焦点化し、「石油化学産業における産業政策の展開とその帰結」という論題で経営史学会西日本部会12月例会において研究報告も行った。また、化学産業の地球環境問題への貢献など同産業を取り巻く周辺領域へも調査の範囲を広げた(主に温室効果ガス排出削減に対する化学産業の役割を検討した)。これらに関しては国際学会(1st World Congress on Business History)において、“Approaches of the Japanese Chemical Industry for Greenhouse Gas Mitigation”という論題で研究報告を行った。
|