本年度の研究成果は、近代だけでなく、近世にかんする分析にも及んだ。近代にかんする研究については、申請者も共著者となって2015年度末に出版された Fukao et al. (2015) Regional Inequality and Industrial Structure in Japan: 1874-2008のデータにさらなる改訂を加え、以下のような成果を得た(いずれも深尾京司氏、Jean-Pascal Bassino氏との共著)。 1) 大川一司らによる長期経済統計シリーズやアンガス・マディソンによる戦前期の日本のGDP系列を刷新し、明治初期のGDP水準がこれまで考えられていたものよりも高かったことを示した。一方でこの推計結果は、明治期の日本の経済成長率は既存の推計よりも低くなることを含意する。つまり、明治期の経済成長を牽引したのは製造業であったが、その日本全体の経済成長への貢献は限定的であったことになる。また、地域(府県)別にみると、労働生産性上昇が地域間格差に与える影響は、明治の前半と後半とで異なっていたことが示された。 2) 1909年から1940年までの製造業にかんする粗付加価値額と労働者の府県別部門別データを利用し、労働生産性のキャッチアップの過程を明らかにした。1925年から1935年にかけての戦間期に、製造業の各部門において労働生産性の上昇がみられたが、労働生産性の地域間格差は縮小していたことがわかった。 近世にかんする研究については、斎藤修氏、高島正憲氏とともに、同じくFukao et al (2015) の府県別産業別データを援用し、近世期の産業別労働力を遡及推計するとともに、産業別労働生産性を算出した。推計結果は未だ暫定的なものではあるが、これまで近世にかんする同様の推計は存在しなかったので、今後推計の精度を高めることで新たな知見が得られるはずである。
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