研究課題/領域番号 |
25780254
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
上野 正樹 南山大学, 経営学部, 准教授 (90379462)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リバース・イノベーション / 家電 / 製品開発 / 新興国 / グローバル経営 |
研究概要 |
研究テーマは「新興国向け製品開発とリバース・イノベーション」である。日本の大手家電メーカーの中でも、新興国で長年の開発実績がある白物家電のうち、「ルームエアコン」に焦点をあてた。研究の最後に、リバース・イノベーションの視点から、新興国向け製品開発の成功要因と、グローバル企業の強みの活用方法を明らかにしたい。 研究初年度の実績として、中国市場とインド市場で販売されているエアコンと各メーカーのデータベースを作成した。具体的には、中国市場25社1,938モデル、インド市場24社1,871モデルのデータを収集した。各市場における代表的な製品比較サイト(中国はZol、インドはCompare India)をもとに、メーカー別に製品スペック(価格、基本形状、馬力、冷房容量、インバータ有無、電力効率、除湿性能など)を入力した。 このデータベースの作成によって、研究課題である日本の大手家電メーカーの製品展開の一端が明らかになった。それは、中国とインドの両市場で、各社の価格中央値の分布を見ると、日本企業はボリュームゾーン(中位と下位グループ75%の普及帯)で製品を展開していない。日本企業は高価格帯での製品展開が中心である。この傾向は、とくにインド市場で顕著である。また、中国には12社の中国企業、インドでは既に8社のインド企業が存在する。そして、生産量から見ても各市場のボリュームゾーンを押さえているのはこうした地場企業である。なおインド市場では、韓国企業も普及帯において多数のモデルを展開していた。 日本の大手家電メーカーの新興国向け製品開発は、高価格帯という相対的に小さな市場に追いやられているのだろうか。それとも、合理的に高価格帯で競争しているのだろうか。今後の詳細な研究調査によって、最終的に日本本国へのインパクト(リバース・イノベーション)の解明へとつなげて行きたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、研究初年度から海外調査を実施する予定であった。次の2つの理由から計画を変更し、初年度はデータベースの作成を行った。 第一に、本研究課題の申請期間中の2012年11月に、日本の大手エアコンメーカーの国内開発拠点でインタビュー調査と工場見学を実施することができた。また、本研究課題の申請に先立って、2010年に中国(広州)、2011年にマレーシア(クアラルンプール)において、上記メーカーの海外開発拠点にインタビュー調査を実施している。これらによって、特定企業に限定されるものの、日本と海外での開発体制の概要や分業状況を把握することができた。 第二に、エアコンは、インバータ搭載モデルも中国では普及している。ライバル企業の多い製品のため、全般的な競争状況や各社の製品戦略を把握しておく必要が出てきた。またインド市場でのエアコンの本格普及はこれからと言われているが(市場規模では中国に次いでアジア2位)、データベースの作成において、24社もの企業が競争し、中国市場と同様に地元企業が台頭しつつあることが明らかになった。 これら2つの理由から、研究初年度は基礎的なデータベースの作成と分析に力を入れた。具体的には、2つの国の合計3,809機種の製品データベースを作成し、日本企業9社の製品展開パターンを把握することができた。また、日本国内の開発拠点へのインタビュー調査によって、日本に展開しているエアコンの多くを中国で開発していること、日本の開発拠点では先端デバイスや要素技術の開発にフォーカスしていたことが分かった。この分業体制がリバース・イノベーションとどのように関連しているのかという新たな問いが出てきた(リバース・イノベーションの阻害要因なのか、推進要因なのか)。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題を解明する方法として、事例研究の方法を予定していた。しかし、日本や地元企業のみならず、韓国、米国、欧州企業も製品を販売している。競争状況における日本企業の製品開発の位置取りを知るためにも、事例研究と製品データベースの分析を並行することが必要である。そこで、三ヵ年の研究計画のうち、二年目の研究の推進方策として2つあげる。 第一に、作成したデータベースの詳細な分析である。製品スペックと価格の関係を調べ、日本企業の高価格帯路線が技術機能を反映しているかを確認しておく。現状の記述統計レベルの分析によると、中国市場では、日本企業のインバータ搭載率が圧倒的に高く、他国の企業を引き離している。インド市場ではインバータ搭載機種は全企業で少なく、日本企業に関しては製品の馬力、冷房容量、電力効率という3つの基本性能で他国企業よりも高性能の傾向がある。ただし、こうした分析は事例研究の一部分として位置づけ、消費者調査による機能価値分析などの詳細には踏み込まない。 第二に、インタビュー調査である。これまでに実施した大手日本企業へのインタビュー調査によると、現地起点の自主開発体制が構築されており、日本で展開している製品の大部分も新興国で開発されている。一方、データベースから「日本企業は新興国市場の高価格帯という相対的に小さな市場に追いやられているのか。それとも、合理的に高価格帯で競争しているのか。それはなぜか」という疑問が出てきた。インタビュー調査の方法によって、この問いを明らかにし、新興国市場での棲み分けとリバース・イノベーションの関連を探りたい。研究対象企業には引き続きインタビューを依頼し、現地調査を実施したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画していたインタビュー調査を実施せず、海外旅費が発生しなかった。それに伴い、インタビューのテープ起こしに必要な経費も発生しなかった。 この理由の一つ目は、本研究課題の申請期間中に、インタビュー調査を実施し、必要な情報を集めることができた。その際、調査対象となるR&D拠点の上層部メンバーにインタビューを行ったため、詳細な聞き取りが実現した。また研究課題の申請前から海外にインタビュー調査を実施していた。これらの調査から、採択前のインタビュー内容を考察し、研究計画を修正する必要が出てきた。 二つ目は、研究を遂行する上で、データベースの作成が必要になった。研究計画当初の予想を越え、今日の新興国エアコン市場では多数メーカーの乱戦状態になっていた。そこで特定企業に関する記述的な事例分析では不十分であることが分かった。なお、このデータベース作成は自力で行ったため、経費が発生しなかった。 使用計画として、物品費(研究資料購入)とその他(テープ起こし委託費)は、申請当初の計画とする。あらたに「人件費・謝金」として、データベースの整理・分析にかかる費用を割り当てる。約3,800の製品モデルについて、20の属性(型番、価格、機能項目、アフターサービス期間など)、合計で約76,000セルを処理する必要が出てきた。また日本で展開されている製品モデルも追加する。ただし日本展開モデルは種類が多いため、数社の製品モデルに限定したい。この作業によって、新興国展開モデルと日本での販売モデルの相違点や類似点を把握し、リバース・イノベーションの解明につなげたい。さらに、可能であればインドでのインタビュー調査も実現できるように、外国旅費に研究費を多く割り当てておく。
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