日本企業の新興国市場戦略に対する研究の通説は「ボリュームゾーン戦略(中間層攻略)」である。そこでは中間層向けの製品開発の特徴が研究されてきた。ところが、本研究で3年間にわたって実施した研究調査から、インドのエアコン市場で日本企業は「プレミアムゾーン戦略(富裕層と中間層上位の攻略)」を進めていた。インドのルームエアコン市場は、中国OEMの低価格エアコンがあふれている。しかしプレミアムゾーン戦略をうまく進めている日本企業は利益創出に成功していることがわかった。 研究の最終年は次の3つをおこなった。第一に、インドのニューデリーで消費者にエアコン購入意欲に関するアンケート調査をおこなった。ショッピングモールとマーケットを巡回し、対面で直接回答してもらった。148回答の分析によると、日本企業のエアコンは富裕層の購入意欲が高く、韓国・インド企業は中間層下位の購入意欲が高いことがわかった。 第二に、インドのルームエアコンの製品データベースを作成した。2015年度版として日本、韓国、インド合計12社、604製品の価格と品質を分析した。なお2014年度版は合計10社418製品であり、本年度はインド企業2社を追加した。その結果、日本企業はハイエンドとミドルレンジを中心としてプレミアムゾーンを攻略しており、韓国とインド企業はボリュームゾーン(中間層に向けたミドルレンジとローエンドの品ぞろえ)を重視している。 第三に、新興国市場戦略の文献レビューをおこなった。日本企業の実証研究や欧米研究者の先行研究をもとにすると、新興国の下位層(BOP)と中間層をターゲットとする研究が主流である。これに対して本研究は、日本企業によるプレミアムゾーン戦略の実態と成果の解明によって、新興国市場戦略に新たな知見を導入することができる。2015年9月から2016年4月にかけて学会発表を3回実施した。
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