研究課題/領域番号 |
25780255
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
横井 克典 九州産業大学, 経営学部, 准教授 (50547990)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 二輪車産業 / 国際生産分業 / 統合生産システム / 日本工場 |
研究実績の概要 |
本年度は,当初の計画通り,これまでの研究蓄積をまとまった形で公表することを目的として博士論文を執筆した。執筆を進めるうちに,追加のフィールド調査よりも文献研究と二次資料の収集・整理が最優先課題であることが判明した。そのため,本年度の研究は文献研究と収集した二次資料の分析が中心となった。これらの結果,博士論文の執筆を概ね完了させたことが,本年度の最も大きな成果である。今後,論文の推敲を重ねなくてはならないが,次年度には提出できる見込みである。加えて,執筆の過程で実施した文献研究及び二次資料分析から以下の2点の実績をおさめた。 第1に,二輪車メーカーの国際生産分業の形成を分析するためのフレームワークを精緻にできた。本研究では,二輪車メーカーが形成した国際生産分業を,本国拠点と複数の海外拠点間の緊密な関係から成るシステムと捉え,統合生産システムと表現している。この統合生産システムの形成を支える調整メカニズムの機能と,その構成要素及び要素間の関係性,さらには各要素に影響を与える産業特性を明らかにした。その結果,本研究の分析フレームワークが昨年度よりも精緻になり,これまで対象としてこなかった二輪車メーカーや部品サプライヤー,あるいは他産業の国際生産分業との比較を視野に入れることができるようになった。 第2に,昨年度までのフィールド調査から得られた情報を補完する詳細なデータを入手した。従来蓄積してきたデータを豊富化させたことによって,約20年前から現在に至るまでの二輪車メーカーの国際生産分業の形成プロセスを描くことができた。さらには,国際生産分業を形成する契機となった3つの要因(競争上の要因,市場的要因,市場的要因に伴った海外拠点の成長)を把握できた。 このように,本年度の研究によって,二輪車メーカーの統合生産システムの全体像と形成プロセス,その形成を支える調整メカニズムを解明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の計画は次の3つであった。まず,計画の中で大きな部分を占めたのが,従来積み重ねてきたデータや情報をまとまった形で公表するために博士論文を執筆することであった。ついで,この論文の執筆のために,二輪車メーカーの海外拠点,とりわけアジア拠点への追加調査を実施することと,文献研究を進めることを計画していた。このうち,海外拠点への追加調査以外は全て実施した。本年度は文献研究と二次資料の整理・検討を優先したため,さらには調査先へのアポイント取得の関係上,海外拠点への追加調査を実施しなかった。当初の計画のかなりの部分を達成したため,その意味では現在までの研究の進捗状況は概ね順調に進展している,と捉えることもできる。 しかし,以下に述べるような2点から,本研究の進捗状況は「やや遅れている」と考えている。 第1に,昨年度も同様であったが,これまでの研究の到達点を博士論文としてまとめることを最優先したため,個別の論文投稿や学会での口頭発表が実施できなかったことである。本年度の研究により,博士論文の提出を見込めるようになったので,次年度は論文投稿や学会での口頭発表を多く実施する予定である。 第2に,本年度に計画していたフィールド調査が遅れたことである。昨年度の計画時点で,フィールド調査から得ることを想定していた情報は,本年度の研究を進めるうちに二次資料で概ね補完できることが判明した。そのため,成果をまとめることに関しては,特に大きな問題があるわけではない。とはいえ,今後,本研究の分析フレームワークで,二輪車メーカーと部品サプライヤーの国際生産分業の形成プロセスの異同を比較するためには,あるいは二輪車メーカーの国際生産分業の形成が部品サプライヤーにいかなる影響を及ぼしたのかを検討するためには,フィールド調査が欠かせない。この点については次年度に実施していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,博士論文の提出・公表に取り組むとともに,次の2点を中心に研究を進める。 第1に,部品サプライヤーへのフィールド調査を重点的に進める。同じ二輪車産業に属する企業でも,部品サプライヤーは二輪車メーカーとは異なるプロセスで国際生産分業を形成してきたことが,これまでの調査から判明している。本年度に導出した分析フレームワークに基づいて,部品サプライヤーの国際生産分業の形成プロセスを分析することで,二輪車メーカーとの異同とそれを生み出す要因に対する理解を深めることができると考えている。加えて,部品サプライヤーの国際生産分業は,部品サプライヤーが抱える固有の要因とともに,二輪車メーカーの国際生産分業の形成からも影響を受けている。部品サプライヤーのフィールド調査によって,そうした二輪車メーカーの国際生産分業の形成が部品サプライヤーに与えた影響を同時に把握できる。これらのことから,本研究の分析フレームワークをさらに発展させられると考えている。 第2に,最終年度である平成28年度は,上述した博士論文に加えて,個別の論文投稿,学会での口頭発表といった成果の公表を多く実施する。そのことによって,本研究の成果を洗練させるとともに,特徴をより明確化させる。さらに,成果の公表に関しては,書籍の出版も含めて検討していきたい。 なお,上述した活動と同時並行で,文献研究と二次資料の収集・整理を継続して進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,フィールド調査よりも文献研究と二次資料の収集・整理を優先したため,当初計画していた調査を延期したことにある。加えて,治安情勢の変化によって,海外の調査先企業へのアポイント取得が滞ったことも,調査時期を延期する要因となった。これまでの研究年度と同じく,平成27年度も本研究の申請時点の使用計画をもとに,執行予定の研究費全体に占める旅費の割合を大きくしていた。文献研究と二次資料の検討を重点的に実施するために,旅費から資料収集のための費用を流用したが,当初割り当てていた旅費及びフィールド調査に関連する費用(その他項目など)の一部を次年度に繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に繰り越した金額は,今後の研究の推進方策の欄で記載したフィールド調査及び調査に関連する費用に充てる。もともと平成28年度に計画していたフィールド調査があるために,繰り越し金額を含めて旅費の金額が多くなった。フィールド調査の実施が遅れたものの,このような支出は当初の計画通りである。したがって,費用執行の時期には遅れが生じてしまったが,本研究の申請時点の使用計画自体は大きく変更していない。なお,これまでの研究期間と同様,フィールド調査に際して無駄な費用を支出しないように,細心の注意を払って実施する。
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