近年、制度会計の分野で、R&D投資を貸借対照表上に無形資産として資産計上すべきかどうかについて議論が行われている。R&D投資の資産計上を支持する実証研究は確かに多数存在するが、どのように資産計上するのが望ましいのかについての実証研究はほとんどない。実際にR&D投資を資産計上するにあたっては、R&D資産額を時価評価することは現実的でないため、基本的にはコスト・アプローチに基づいてR&D資産額が評価されることになる。実際、国際会計はそうしている。しかしこの場合でも、次の3点を検討しなければならない。 ①R&D投資の成功率:R&D投資は非常に失敗しやすいので、投資額の全額をそのまま資産計上することはできない。 ②投資から成果が得られるまでのタイムラグ:通常、R&D投資では成果が得られるまでに長い期間が必要である。このような場合、有形固定資産では建設仮勘定で対処するが、R&D投資でも同様の処置が必要かもしれない。 ③R&D資産の減価償却率:R&D資産の減価償却率(または償却期間)の設定次第で、過大評価にも過小評価にもなりうる。 これらのパラメーターを推定した実証研究は存在していないため、本研究では東証1・2部に上場している製造業企業を対象に、この①R&D投資の成功率、②R&D投資から成果が得られるまでのタイムラグ、③R&D資産の減価償却率、の推定を試みた。 推定結果は、①R&D投資の成功率は全体的に58%程度であり、②タイムラグは全体的に5年以上6年未満、③R&D資産の償却率は0.051、との結果を得た。これらの情報は、会計士にとって、国際会計を導入している企業の監査の際に有用な参考情報となりうる。推定の際に使用した分析モデルはまだまだ荒く、いたるところに改善の余地が残っているため、今後の研究の進歩によってこの結果は変わりうる。
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