研究課題/領域番号 |
25780284
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
小川 淳平 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (00453077)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保険契約会計 / 保険契約負債 / 負債概念 / 整合性分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,保険監督・規制と財務報告の関係を踏まえながら,保険契約における利益計算や当該取引の認識,測定,および表示のあり方について検討することである。昨年度に続き,おもに会計基準研究を進めた。 平成25年度は,保険契約負債について引当金,退職給付負債,資産除去債務などの他の負債との比較を通じて,当該負債の特徴や整合性を明らかにした。平成26年度は,保険契約から生じる利益を対象として検討した。IASBが作成したIFRS4「保険契約」の改訂にかかる各種報告書の変化を観察するとともに,利益計算および包括利益を含めた利益表示について,概念フレームワーク,収益認識会計基準,および金融商品会計基準と比較した。そして,平成27年度は,ED(2013)において提案されているキャッシュ・フローの配分と負債の評価の混合として計算される利益の意味ついてさらに検討を加えた。これらは,保険契約の財務報告のみならず,今日の会計基準全般の構造の特徴を明らかにするために,また企業行動を観察する際の仮説を構築するために不可欠の検討であった。 今年度の研究成果として,まず平成27年9月に神戸大学で開催された日本会計研究学会にて自由論題セクションで報告した。次に同年12月に生命保険文化センター主催の保険学セミナー研究会にて報告した。各所にて指摘された点を反映し,修正・改善をはかっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた研究期間は3年間であったが,研究期間を1年間延長した。したがって,今年度で3年目が終了している。初年度は,保険契約会計において,貸借対照表上で最も検討が必要である負債を取り上げた。平成26年度は,前年度に課題として残していた,おもに損益計算書・包括利益計算書にかかわる保険契約における利益や収益認識について検討を加えた。監督・規制と財務報告の関係,保険契約の特殊性と一般性,利益計算における整合性など,各種の論点について一定の方向性が明らかとなった。平成27年度は,会計基準研究をさらに進めた。とりわけ,保険契約会計の利益計算の構造や会計基準の整合性について検討した。 経験的に検証可能な理論仮説および作業仮説を抽出するにはさらなる分析が必要であるが,当該研究の1つの柱である,会計基準についての記述的・規範的研究は,当初の研究計画にてらして順調に進展しているといえる。保険契約以外の会計基準,そして概念フレームワークも同時並行的に改訂作業が進んでおり,それらとの関係性は今後も継続して検討する必要がある。 他方,特定企業の事例研究を含めた経験的な検証は,予定よりも遅滞している。その要因として,欧州における保険監督・規制であるソルベンシーⅡが,度重なる延期をへて2016年1月に発効したことがあげられる。また,IASBによる基準設定も研究開始時の工程表と比較して遅延している。これらにより,経験的データである適用企業の財務数値の収集が不十分となっている。次年度は研究最終年度になるため,事例研究のみでも実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,当該研究の最終年度となる。これまでの研究を踏まえて,記述的・規範的な会計基準研究をさらに進展させる。保険契約負債を負債会計一般の会計事象として位置づけ,退職給付,リース,引当金,資産除去債務など,現在の負債をめぐる会計上の論点に取り組む。また,利益計算および利益表示についてもさらに検討を加える。 次に,ビジネス・モデルの観点から保険契約と共通性の高い,保証契約,および各種のオプション取引などにも対象を広げる。これらの検討を進めることで,収益認識,リース取引,および金融商品などにかかる権利・義務関係に関する会計問題についての一般化・統合化をはかり,あらたな視点で一貫性・整合性を観察・分析できる可能性がある。 さらに,日本および欧州の保険契約をおもに扱う金融機関について事例研究をおこなう。ヒアリング調査なども必要に応じて実施する。 以上のために,国内外の関連領域の学会やセミナーなどに積極的に参加して理解を深めるよう努める。また,学会および研究会での報告を通じて,研究のさらなる進展をはかりたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の目的は,①保険監督・規制と会計基準の関係の理論的・制度的解明,②監督・規制の保険会社への影響の検討である。①を中心に研究を重ね,一定の目標を達成できた。他方,②は欧州でのソルベンシーⅡの発効が2016年1月に遅れ,また国際財務報告基準(IFRS)4号「保険契約」の制度化およびその適用も遅延している。それによって,当初購入予定であったデータベースの予算額分が未執行となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
まずは,保険契約を取り扱う金融機関を含む企業財務データを入手することが可能なデータベースを購入する予定である。平成28年度から在籍している神奈川大学のデータベースの利用状況を勘案して,必要性の高いものから入手したい。なお,データベース提供会社からすでに情報提供を受けている。また,洋書をふくめた文献等をさらに渉猟する。 さらに,国内外の学会や研究会などにも積極的に参加し,報告およびディスカッションを通じて研究を進展させるよう努める。さらにヒアリング調査などにも役立てたい。
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