平成28年度は,当該研究の最終年度であるため,保険契約に関する会計について,記述的・規範的な会計基準研究をさらに進展させ,また国内外の金融機関を対象として事例研究等を行うことを目標としていた。 前者については,まず保険契約の利益に着目し,計算および表示を中心に検討した。政府ないし国際的な監督者による規制を強く受ける保険事業にとっては,金融監督・規制と会計基準の両者を念頭に置いた基準設定が求められる。監督・規制上はリスク開示が求められる一方,会計基準では利益が重視される。そこで,国際財務報告基準(IFRS)にかんする基準案の変遷や性質を詳細に観察した結果,貸借対照表において保険契約負債を現在価額で評価する一方,利益計算においては繰延処理を含めた稼得利益としての純利益を維持していることを論証した。 次に,米国をはじめ世界的に収益と費用の対応関係が弱くなっていることが指摘されているなかで(ex. Dichev and Tang(2008),He and Shan(2016)),利益を中心とした会計情報がいかにあるべきなのかを検討した。IFRS17において,利益計算の核となる基礎概念である収益費用の対応が図られている程度を確認し,それが会計情報に及ぼす影響について検討した。IFRS17の収益と費用の発生状況,および再評価後の評価差額の会計手続きなどを詳細に分類・検討し,対応度を高める要素と低める要素が混在していることを論証した。 他方,後者については,保険監督・規制の適用の遅延や,会計基準の設定時期の伸長により,適用前後で変化を観察するような分析を実施するに至らなかった。個別のケースとして観察できた事例もあるため,学術誌以外で公表することやさらなる分析の蓄積などが求められる。
|