研究課題/領域番号 |
25780286
|
研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
石椛 義和 神戸市外国語大学, 外国語学部, 講師 (20553142)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 会計情報 / 資本市場 / 意見不一致 |
研究実績の概要 |
会計情報は投資家が企業価値を評価する際に利用できることを重要な目的としているが,その解釈については投資家に委ねられており,投資家間で情報に対する意見が一致しない状況が生じる可能性がある.本研究は,企業が開示する会計情報に対して,このような株式市場での「意見不一致」が生じる状況において,開示される会計情報とそれに対する意見不一致の程度との間にどのような関係があり,また株価形成にどのような影響を及ぼす可能性があるのかについて,株式市場を対象とした数理モデルを用いて検証することを目的としている. 投資家によって解釈が異なるという資本市場のより現実的な状況を想定し,会計情報が株式市場に与える影響を明らかにすることは,会計情報に期待される意思決定有用性を考えるうえで重要である.そこで当該年度では,Kyle (1985)の株式市場モデルに会計情報を追加し,さらに情報に対する事前の信念が市場参加者間で異なるように,モデルの拡張を行ったところ,市場参加者間の事前の信念の差が均衡株価に影響するという結果が得られた.投資家は新たな情報を観察したとき,事前の予想と異なる分だけ評価を改めると考えられるため,新たに同じ情報を観察したとしても,事前の信念が異なる市場参加者ごとにその情報の解釈は異なることになる.したがって上記の結果は,意見の不一致が株価に影響することを示している. また,株式市場における評価に関心を持つ経営者は,開示する会計情報が投資家にどのように解釈されるかに注目しており,意見不一致の程度が経営者の行動を変化させる可能性がある.このような株式市場を前提としたときに,会計情報に対する解釈の相違が,株価に関心を持つ経営者の事業投資行動にどのような影響を与えるのかについて,引き続き検証を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,会計情報に対する意見不一致が株式市場に存在する数理モデルを特定することで,投資意思決定に用いられる会計情報の特徴を明らかにすることを目的としている.会計情報に対する解釈が異なるという,より現実的な状況を考察するため,情報に基づいた投資家行動と,市場の反応を踏まえた経営者行動の両面から,モデルの拡張を進めている. 研究で注目する論点は順に,「意見不一致の存在する株式市場のモデル化」「会計情報の特定による考察」「経営者行動の導入」である.これまで意見不一致が存在する資本市場モデルについての先行研究を整理したうえで,会計情報に対する事前の信念の相違を含んだ株式市場モデルの構築を行うことで,会計情報の特性を確認した. 現在,上記の株式市場モデルに経営者の事業投資行動を組み込んだときの均衡の観察を行っている.ここまでおおむね順調に進展しているが,「経営者行動の導入」については当初計画で当該年度までに十分に検証できない可能性を指摘しており,事業期間延長の承認をうけ,次年度も引き続き本論点の検証を行うこととする.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では,意見不一致の定義を先行研究の調査によりまとめたうえで,数理モデルを構築し均衡を導出することを通して,その特徴を分析する.数理モデルの均衡の導出には,パソコンの数理計算ソフトを利用して行う. 分析結果は段階ごとに研究会等で発表し,会計研究者より意見を収集し理論を洗練させていく.研究成果は最終的に論文を作成し,学会・研究会での報告および学術雑誌に投稿する予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初研究計画では,研究目的の一部について,当該年度中に十分に行えない可能性があることを述べていた.次年度使用額は当該年度に上記研究を遂行した場合に生じる予定であったもので,事業期間延長の承認を得たうえで次年度に繰り越すもの.
|
次年度使用額の使用計画 |
学会・研究会への出張費,論文投稿にかかる費用(学会誌投稿料・英文校正費など),参考書籍,消耗品・パソコン関連費等の物品費などに利用する.
|