本研究では、組織学習の概念に着目し、企業の組織学習能力の向上を促す管理会計システムの体系と、組織学習能力を通じた組織業績の向上に貢献しうる管理会計システムの機能について明らかにすることを目的とした。昨今の組織学習論では、グループに関連する知識を学習し、記憶し、コミュニケーションをとるための協力的な分業であるTMS(Transactive Memory System)が着目されている。特に製品開発の研究においては、従来のプロジェクトにおける機械的メモリーを中心とする研究からTMSに見られるプロジェクトのメンバー間で互いに知識を補完し、メンバーの認知の負荷を削減するコレクティブ・メモリーも重要視されている。 これまでの管理会計研究において議論されてきた情報提供機能は、機械的メモリーが中心であった。しかし、製品開発プロジェクトは、不規則で複雑な進行プロセスをたどるため、非公式な人間関係を促進し維持することが重要であり、また、個人の持つソフトなデータと体系的なハードなデータを融合し体系的な記憶互換の仕組みが重要である。管理会計システムのTMSへの効果として情報提供機能と動機付け効果が挙げられるが、製品開発プロセスにおけるTMSを促進させるのか、またTMSが製品開発の成果に結びつくのか、その関係性を明らかにするために本研究ではSimonsのコントロール・レバーに依拠し、分析フレームワークを構築した。 本研究を通じて、各コントロール・レバーは、製品開発メンバーの差別化された知識構造やメンバーの知識に対する信頼、製品開発チーム内での知識の処理に影響を及ぼし、製品開発パフォーマンスを向上させていることが明らかとなった。また、開発チームのリーダーシップがプロジェクトの進展に応じてコントロール・システムを使い分け、組織学習を通じて製品開発パフォーマンスに影響をもたらしていることを明らかにした。
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