研究課題/領域番号 |
25780293
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
小澤 康裕 立教大学, 経済学部, 准教授 (50362819)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 保証 / CSR報告書 |
研究実績の概要 |
本年度は、CSR報告書の「保証」についての実態調査および実験研究等を行うことを予定していた。主に、「第三者意見」を表明している有識者にインタビューを行うことを考えていたが、大阪の企業へのインタビューを実施し、CSR報告書の作成者側がどのような意図でCSR報告書を作成し、保証を求めているのかを調査することとなった。 また、CSR報告書の利用者がどのような認識を持っているかを調査した。すなわち、CSR報告書の利用者として、一般の人々を想定した場合、CSR報告書の内容とその保証が利用者にどのように捉えられているのかについて、学生に対する実験を通じて検証した。その結果の一部は、「CSR報告書に対する保証についての利用者の認識」(立教経済学研究第68巻第4号)として公表した。これは、質問紙調査により、CSR報告書の「保証」が利用者の認識に与える影響等を調査したものである。その第一義意義は、CSR報告書の利用者側の視点から「保証」の意義について検討したことにある。つまり、企業はCSR報告書の信頼性を高めようとして、各種の「保証」を得ていると考えられるが、実際にそのような効果があるのか、あるとすれば、「保証」の種類によってその効果は異なるのかを明らかにしようとした。 分析結果から、次の諸点が明らかになった。第一に、財務諸表に加えて、CSR報告書という追加的な情報を提供されると、回答者の投資意欲は有意に高くなった。第二に、財務情報、CSR情報および会社そのものの信頼性については、CSR報告書に「保証なし」よりも「独立保証報告書」が添付されている方が、財務情報の信頼性が高いと評価されていた。第三に、投資の意欲の程度に関しては、CSR報告書の「保証なし」、「第三者所見の添付」、「独立保証報告書の添付」の順に、投資を希望する程度を示す値は高くなったが、これらの差異は有意ではなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CSR報告書の「保証」に関するデータベースの作成は順調に進んでいる。現在までに、東証1部上場企業の最新のCSR報告書の収集は終了した。 また、質問紙調査による実験も平成26年度中に実施し、分析のためのデータはそろってきている。しかし、インタビューが順調に進んでいないため、今後、精力的にインタビューに取り組む必要がある。 平成26年度においては、幸運にも、CSR報告書の利用者だけでなく、作成者側にもインタビューを実施できた。作成者側の意図を理解し、その意図と利用者の認識との比較検討のため、平成27年度も継続して、複数の業界の企業に対してインタビューを実施していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たって、研究の総括を行うため、CSR報告書のデータベースの完成、完成データについて、詳細かつ適切に分析し、一定の分析結果を提示したい。特に、CSR報告書の内容分析をさらに進め、「保証」の意義や効果についてより詳細に検討する。 平成25年度に実施したCSR報告書の保証提供者に対するインタビューと、平成26年度に実施したCSR報告書の作成者側利用者に対するインタビュー調査を継続する。また、発話プロトコル法を用いて、CSR報告書およびその「保証」の利用者の情報処理過程を明らかにする。 総括として、平成25年度のアーカイバル・データの分析結果、平成26年度の質問紙調査について、さらに深い分析を実施するとともに、プロトコル分析の結果を合わせて、CSR報告書の「保証」とは何かについて明らかにしていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月にシドニーの共同研究者との打ち合わせに行かざるを得なくなり、決算を目前にして清算するための時間的余裕がなく、結果として、2,066円の差額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度については最終年度ということもあり、人件費・謝金を有効活用してデータベースの拡充やインタビュー調査を実施するとともに、積極的に学会や研究会での報告等の機会を見つけて成果を公表する予定である。 また、旅費を活用し海外の共同研究者や研究協力者とのミーティングも早めに行い、研究の推進を加速したい。
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