本年度については、CSR報告書の「保証」に関する実態調査と実験研究をさらに進め、現在、その成果をまとめている。 特に、「保証」概念について検討を加え、監査報告書を含む「保証」に関する報告書が利用者にどのような影響を与えているのか、どのように認識されるのかを検証した。学生を被験者とする実験を通じて、「保証」の本質に迫ることを目指した。 本研究は、CSR報告書の作成者側ではなく、利用者側の視点から「保証」の意義について検討したという点に特徴がある。研究結果からは次のことが明らかとなった。第一に、CSR報告書の利用は財務諸表のみを利用した場合に比べ、投資意思決定に影響を与える、具体的には投資意欲が高まることが示された。また、財務情報に加えてCSR報告書という追加的な情報を合わせて理解することが投資意欲の向上に結び付いている可能性も明らかになった。第二に、何も「保証」がない場合に比べれば、第三者所見の添付が財務情報の信頼性を向上させる可能性があること以外は、財務情報と会社の信頼性向上に対して監査報告書が有用であることを確認することができたのみである。すなわち、今回の調査からは、いかなる「保証」もCSR報告書あるいはCSR情報の信頼性の向上には直接的な貢献がない可能性があるということになる。ただし、今回は学生を回答者とする質問紙調査であるという点で限界がある。一般投資家や機関投資家に対する質問紙調査を行った場合、結果が異なる可能性はある。 CSR報告書だけでなく、統合報告書の普及が急速に進む中、本研究はそれらの「保証」に関する検討のスタート地点に立ったに過ぎない。「保証」は何らかの信頼性を与えるものであることは確認されたが、今回の研究結果だけでは、まだ不十分であり、同様の実験等を継続的に実施していくことの必要性が確認された。
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