本研究の目的は、日本企業のブランド・マネジメントに資する管理会計情報の役割を明らかにすることである。この目的を達成するための手段として、ブランド・マネジメントを実行するための予算編成および予算統制に関する日本企業の実態をケースから明らかにし、管理会計情報がブランド・マネジメント専門部署あるいは担当者の意思決定および業績評価にどのように貢献するかを論じた。 ケースとしては特定の企業を考察するシングルケーススタディの手法を採った。これまでの研究において、当該企業の先行研究をもとにインタビューを行い、現在のブランドマネジメントシステムについて考察し、管理会計情報が社内の他ブランドとの関係の中で意思決定を行う一助となっていること、および業績評価指標としても効果的に用いられていることが明らかとなった。そこで、本年度は当該企業の過去にさかのぼり、当該企業が現在のブランドマネジメントシステムを構築するにいたった背景や、構築のためのファクターを抽出することを目的に検討を重ねた。理論的フレームワークとしては制度論(Institutional Theory)を用い、当該企業がブランドマネジメントシステムを構築するまでの過程を考察した。その結果、会計担当者(アカウンタント)が、当該企業にマーケティング部門にブランドマネジメントシステムを定着させ、なかでもブランドマネジャーが利益管理を重視するよう方向付けたことが明らかとなった。また、当該企業が1960年代当時において、直接原価計算が導入されており、ブランド別の損益管理を行う土壌のあったことが重要な役割を果たしていた。 ブランドマネジメントの一形態であるブランドマネジャー制が、管理会計情報と適切に結びつき、有効に活用されることが明らかとなった。
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