最終年度にあたる本年は、これまでの調査データをもとにした分析とその成果の報告を行った。初年度に収集した新聞記事データを、昨年実施した社会意識調査データと組み合わせた分析を実施し、新聞における「外国人」表象が排外意識に与える効果を検証した。分析の結果、外国人が経済的な好影響をもたらす存在として表象されている地域では、排外意識が低下することが示された。しかし、この効果は当該新聞の購読者においてみられるわけではなく、地域の居住者全体に対する効果であった。したがって、メディアの効果とは言い切れず、その地域における外国人の社会的位置づけが人々の意識に反映されている可能性がある。また、外国人を治安に対する「内からの脅威」として表象する傾向にある地域で、排外意識が特に高いとはいえず、外国人犯罪報道が排外意識に与える効果は明確でないことが示された。メディアにおける表象と排外意識の関連を、地域における表象の差を視野に入れて検証した研究は希少であり、地域の産業構造が外国人の社会的位置づけを変え、結果として排外意識に影響を与えるという知見は、こうした視点をとったことによって得られたものである。この知見については、日本社会学会において報告を行った。ただし、記事数の非常に少ない地点が数地点あったため、現在新聞記事の数を追加したうえで再分析を行っている。この結果は、論文にまとめ、学術雑誌において公表する予定である。 さらに、制度と排外意識の関連については、European Social Surveyデータを元にした分析をウメオ大学のMikael Hjerm氏と共同で実施し、福祉国家を維持するために移民を排斥するという福祉愛国主義が、国の社会保障制度によって影響を受けていることを明らかにした。この結果を論文にまとめ、学術雑誌で公表した。
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