本年度の研究活動で主体としたのは、大正・昭和初期の君主の祝祭にあたって売り出された商品群がモード的な相貌を強く帯びていた可能性についての調査分析である。官業の記念商品群に対する社会的需要の時系列的推移、祝祭時の百貨店・服飾業界の広告・販売活動、祝祭に関連した商品・広告・企画の展開時期などの検討からこの可能性を析出することで、従来のナショナリズム論的な解釈枠組みの妥当性を、同時代の消費者・生産者の動向の実際から批判的に検討した。 具体的な知見は次の諸点にまとめられる。第1に、祝祭の記念商品に対する人びとの需要は発売直後に急激に高まり、一定の期間を過ぎると急激に下降していたこと。第2に、同時代の消費者の間では、記念絵葉書・切手のような耐久財を含め、短期的にだけ楽しむ消費財として記念商品を意味づけ消費しつくす傾向が見られたこと。第3に、この種の刹那的な消費動向が、モード的出来事として祝祭を定位・広告する私企業(とりわけ百貨店・服飾業界・メディア産業など)の商略と密に結びついていたことである。この3点から、君主の祝祭が資本制のあわただしい回転と速度に組み込まれたことで、永久記念すべき歴史的・国民的出来事としてではなく刹那的な消費の対象=次々に生成・消失するモード的イヴェントの一部として体験・忘却されていた可能性について検討を行い、祝祭記念商品の史的意義を「記憶の場」的な解釈へと収斂させがちであった研究史に対して新しい見方を提起することに努めた。
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