本研究の目的は、「日本社会」におけるマイノリティの社会的アイデンティティが顕在したうえで、マジョリティとの結合的な集団関係がいかにして形成されうるのかを、部落問題を事例として検証することであった。 具体的には、①「部落民」アイデンティティ獲得-継承のプロセス、②「部落民」アイデンティティが顕在化する条件、③「部落外」マジョリティの対応の3点と、その相互関係の分析を行った。 ①ならびに②については東京都・高知県・熊本県などの全国各地で「部落民」アイデンティティを顕在化させている部落出身の若者とそれを取り巻く人びとへのインタビューを実施し、「部落民」アイデンティティが家族や地域での部落解放運動を通じて獲得され、さらには部落解放運動を媒介として顕在化するメカニズムの一端を明らかにした。 ③については、長野県・東京都・福岡県・群馬県・大阪府などで近年生じている部落差別事象の収集を行ったほか、近年都府県で実施されている人権に関する意識調査をすべて収集し、その結果から、同和問題に対する認知・忌避的態度などの現状について分析を行った。そのうえで、同和問題の認知状況は各地で大きな格差が見られること、いずれの地域においても20歳代の若年層において認知度が低いことなどを明らかにし、これら認知していない層への教育・啓発の重要性などを指摘した。 これら3点の分析を通じて、部落解放運動が機能している地域においては肯定的なアイデンティティを形成する条件が整っているが、いったんそうした地域を離れるとマジョリティによる部落問題への無理解は否めず、アイデンティティを顕在化させることが困難になる状況を明らかにした。
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