最終年度は、青少年の性行動に対する家庭環境の影響を考察し、学会での発表および論文執筆を行った。主な知見は以下の通りである。 家庭環境には、親の教育レベルや社会経済的地位の高さ、子育て・しつけの厳格さ、きょうだい構成、住環境などのさまざまな要因が挙げられる。親の教育レベルや社会経済的地位の高さ、子育て・しつけの厳格さについては、教育レベルや社会経済的地位が高いほど、また厳しい家庭で育つほど性行動が抑制されると考えられている。一方、母親の影響については別の見方も存在しており、「母親が家にいること(専業主婦であること)が子どもの性行動を抑制する」という仮説もしばしばみられる。きょうだい構成については、年上のきょうだいがいることが年下のきょうだいの性行動を促進する要因になりうる。住環境については、専用の個室を持っていることは、プライベートな空間を保有していることから、性行動を促進させるのではないかと予想される。 分析には「第4~6回の青少年の性行動全国調査」の中学生・高校生のデータを用いた。分析の結果、子どもの性別を問わず、父が「勤め人(事務)」であることに比べて「いない」または「自営」であることは初交経験を促進させ、母が「勤め人」であることに比べて「専業主婦」であることは初交経験を抑制することがわかった。兄・姉がいること、専用個室を持っていることも、本人の性別を問わず初交イベントに対して正の影響を持っていることから、これらの家庭背景はそれぞれ独立した要素として青少年の性行動に影響を与えていることが明らかになった。 研究期間全体を通して、若年層の生活の複数面における格差を実証できたという点で意義があると考える。特に若年層の貧困問題や、性にかんする分極化は、その後のライフコースを左右するだけでなく、少子高齢化対策や社会保障の在り方にかんする議論にも、関連づけていくことができるだろう。
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