平成28年度は、平成27年度まで3年間行ってきた中国・新郷市のX太極拳研究会のフィールドワークを継続し、また、新郷市およびイギリス・マンチェスターのC太極拳センターのフィールドワークで収集された資料の整理と論文の執筆を行った。研究成果は、1本の単著論文、2本の国際学会における口頭発表として発表することができた。 新郷市の調査は、平成28年11月3日より11月14日にかけて行った。具体的には、研究会のメンバーとして練習の参与観察を行ったほか、指導者および生徒たちに半構造化インタビューを行った。今回の調査ではとりわけ指導場面のビデオ録画に力を入れ、指導者と生徒の言語的および非言語的なインタラクションを検討した。 平成27年度までの3年間で収集してきたデータと本年度のデータを総合することで、太極拳の上達をより精緻に分析することができた。分析の第一の焦点は、太極拳の習得における相互身体性に関するものである。具体的には、1)上達にともなう生徒の体内感覚および視覚の変化を経時的に辿ること、2)そのような変化をもたらした指導方法を身振りと言語の両側面から分析すること、3)こうした感覚および視覚の変化が指導者と生徒、および、生徒どうしの関係にどのような影響を及ぼすかを考察した。 分析の第二の焦点は、太極拳の文化間伝播に関するものである。具体的には、1)太極拳がその成立において武術と養生術の二側面を持っていたことを歴史的文献にもとづき考察し、2)現代の中国およびイギリスにおける太極拳の実践に、この二側面がどのように反映されているかを考察した。
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