研究課題/領域番号 |
25780327
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
木村 至聖 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (50611224)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 文化遺産 / 産炭地 / 炭鉱 / 記憶 / 産業遺産 |
研究概要 |
研究の初年度は、世界遺産暫定リストに記載された「明治日本の産業革命遺産群」(「九州・山口の近代化産業遺産群」より改称、以下「遺産群」)の各構成資産がおかれた歴史的・地域社会的背景を明らかにすることを目指した。「遺産群」には、九州の三池炭田、筑豊炭田、および「軍艦島」として知られる端島炭坑のあった崎戸・高島炭田という3つの炭田が関わっている。そこで、まずはこれらの炭田に関して、文書資料および映像資料の2つの手がかりから研究を進めた。 まず、映像資料としては、NHKアーカイブスに所蔵されている炭鉱関連ドキュメンタリー番組群を閲覧し、その分析結果を関西社会学会、日本社会学会、および日本マス・コミュニケーション学会にて報告した。このなかでは、比較的戦後早期に炭鉱が閉山した九州の各炭田(「遺産群」の関わる炭田)については、様々なかたちで炭鉱の経験を記録・記憶する試みが行なわれてきたこと、しかし日本の石炭産業が衰退し人々の意識から後退していくにつれて、記録・記憶の試みはそれに関わる個人への共感のみに縮小し、産炭地・石炭産業が歴史的に置かれてきた構造的問題については触れられなくなっていることを明らかにした。 一方、文書資料の調査としては、「遺産群」のうちの端島炭坑に注目し、九州大学附属図書館・記録資料館産業経済資料部門(旧石炭研究資料センター)にて、労働組合関係の資料を分析し、離島炭鉱という特殊事情からくる、住宅問題、物価高の問題をめぐる議論について調査した。 こうしたメディア上で表象されてきた「遺産群」の「地元」地域社会の歴史・実態と、文書資料を通して明らかになるそれの重なりおよびずれは、「遺産群」の表象に関わる地域住民や関係者のモチベーションやその表象の内容にも大きく影響するものと考えられる。今後の2年間はこの問題に焦点化して調査を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、近年国内外において炭鉱などの労働文化が「遺産化」されている現象に注目し、1)日本における「労働文化」の特徴、すなわちそれが今日階級文化としてよりは地域文化として「遺産化」されつつあるという仮説を検証し、2)そこでの「地域」というものがいかなる人々が参加する、いかなる範域のものとして想像されつつあるのかを明らかにすることである。3)さらに、こうした国内における「労働文化」とその土台となる「地域」の再構成が、いかなる社会的力学のもとで進行しているのか、それが現代日本社会にとって持つ意義について検討することも目指している。 初年度はとくに1)に関わり、労働文化と地域文化の重なりとずれを把握する下準備の作業を行なった。当初は、初年度から現地で産業遺産群の表象に関わる人々への聞き取りを行なう予定であったが、申請書提出後にNHKアーカイブスの映像資料を利用することができるようになったため、初年度は映像・文書資料による研究に重点を置くことにした。その結果、当初研究計画の二年次に実施する予定だった調査を一年次に行なうことになったが、資料調査の成果は学会報告等で着実に発表されており、計画の前後が入れ替わったこと以外は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
二年次は、これまでの調査研究から得られた成果を、7月に国際社会学会の第18回世界社会学会議で報告し、国内外の関連分野の研究者と意見交換を行なう予定である。今後はそこで得られた示唆をもとに研究を進めていく予定である。その際、初年度に予定していた、産業遺産群に関わる自治体の世界遺産推進を担う部署や、市民団体、各地域の博物館などへの聞き取り調査を重点的に行なっていきたい。 またこれと並行して、文献研究を通して「労働文化の遺産化」をめぐる国内外の事例研究を集め、国際比較のための分析枠組みの構築も進めていく。
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