研究課題/領域番号 |
25780327
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
木村 至聖 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (50611224)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 文化遺産 / 産炭地 / 炭鉱 / 記憶 / 産業遺産 |
研究実績の概要 |
研究機関の二年目には、本研究の主な対象である「明治日本の産業革命遺産――九州・山口と関連地域」の世界遺産登録に関する動向をフォローしつつ、国内の他の地域での産業遺産の保存・活用事例を比較対象として調査する作業を進めた。 前者の世界遺産登録の動向については、7月に国および自治体の関係者および世界各国の産業遺産保存・活用に関する専門家が集まった『産業遺産国際会議』に参加し、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録の可能性や課題について情報収集を行なった。後者の国内各地域の事例調査としては、9月に北海道岩見沢市で地元のNPOの主催により行われた産業遺産を活用したアートプロジェクトの視察、3月には見学用施設として整備されている秋田県鹿角市の尾去沢鉱山および隣接の資料館の訪問を行なった。 こうした調査と並行して、昨年度までの研究成果の発表も行なった。7月には横浜で開催された国際社会学会(ISA)にて、長崎市における軍艦島のブランド化とそれに対する地域社会の反応についてまとめた研究論文を発表した。 以上の調査研究から、「明治日本の産業革命遺産」が海外の先行事例(世界遺産に登録されたもの)を参照してユネスコの登録基準に適合するように構成資産およびその意味づけ(ストーリーづけ)を調整する作業が大詰めを迎えていること、それにともないこれまで流動的だった自治体や省庁の関与・利害関係が明確化してきたことが明らかになった。その一方で、「明治日本の産業革命遺産」の構成資産に含まれない産業遺産が所在する地域では、地元の自治体やNPOなどが「世界遺産」のブランドにとらわれずに産業遺産のプレゼンテーションの試みを実践していることも見逃せない。 最終年度は「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録可否が明らかになるため、その影響を追うとともに、他地域がその事例をどのように受け止めていくのかを調査したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、近年国内外において炭鉱などの労働文化が「遺産化」されている現象に注目し、1)日本における「労働文化」の特徴、すなわちそれが今日階級文化としてよりは地域文化として「遺産化」されつつあるという仮説を検証し、2)そこでの「地域」というものがいかなる人々が参加する、いかなる範域のものとして想像されつつあるのかを明らかにすることである。3)さらに、こうした国内における「労働文化」とその土台となる「地域」の再構成が、いかなる社会的力学のもとで進行しているのか、それが現代日本社会にとって持つ意義について検討することも目指している。 研究計画の初年度は主に1)について、二年目は2)と3)について主に検討した。とくに「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が現実味を帯びてきているなかで、地域社会の諸集団の思惑とは別に国の関与が大きくなってきていることが明確に観察できた。また、他の地域での影響についても事例研究を徐々に進めており、来年度に継続していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
三年次は、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録の可否が明らかになるため、その動向や影響について調査していきたい。これと並行して、二年次に引き続き、海外の事例についても文献研究などを通して比較研究のための枠組み作りを進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月に東京で開催された研究会への参加のため旅費を計上していたが、後から研究会主催者より旅費が支給されることがわかったため、科研費の使用を取り消した。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度も研究会等で研究成果を報告する機会が見込まれるため、そのための旅費として残額を繰り越し使用したい。
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