研究期間の最終年度となる本年度は、二年目までの研究成果を国内学会やシンポジウムなどで発表するとともに、2015年の「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を受けて大きく変容しつつある研究対象地域のフォローアップ調査、および台湾における類似事例との国際比較を視野に入れた調査を行なった。 二年目までの研究では、産業遺産は「労働文化の遺産」というよりも「地域文化の遺産」として意味づけられつつあることを確認してきた。そして、本研究の最終年度である2015年度には、実際に「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録されたことで、遺産群は「地域文化の遺産」というよりも「日本の近代化の遺産」というべきものとして、より抽象化された表象に結実することになった。だがこうした産業遺産群の国家的スケールの表象が、韓国政府の反発を呼び、近代化の産業遺産を表象することの困難があらためて明らかになった。本年度はこうした困難に対処するために必要ないくつかの視点についての考察を、国内学会やシンポジウムで発表し、来年度以降には論文化されたかたちで発表する予定である。 ここまでに達成された本研究の意義は、産業遺産をめぐる国際的な動向およびその研究の成果を踏まえつつ、地域社会学的な視点から日本の事例を分析したことで、日本における「労働文化の遺産化」の特徴を明らかにしたことである。そしてこうした産業遺産をめぐる日本の事例は、脱工業社会における統治構造や歴史(再)認識のあり方の国際比較のためにも重要なものとなるだろう。
|