本研究は、日本における依存問題をめぐる言説の状況や、依存問題への介入・支援の現状を考察することを目的としている。 28年度の研究成果としては、2本の論文が学会誌に掲載され、本研究の成果を含めた教科書を1冊刊行した。 1本目の論文は、『社会学評論』(査読あり)に掲載され、薬物依存からの回復支援施設ダルク(Drug Addict Rehabilitation Center)のフィールドワークの結果を考察したものである。本論文では、依存症者のサポートとして世界中に普及している12ステップ・グループが、資本主義社会の組織とは全く異なる原理に根差した組織であることを提示した。本研究の成果は、今後も、依存症を取り巻く社会環境を考察する形で展開させていく計画である。 2本目の論文は、『社会学論叢』(依頼論文)就労困難な学生を大学でどのように支援するかをテーマとし、質的調査の教育現場における意義について考察した。心理的な問題を抱えた学生が高等教育機関で増大するなか、彼らの学習・就労面での支援が各大学に求められている。 教科書(『社会学ドリル―この理不尽な世界の片隅で』新曜社(単著))では、依存症をめぐる現状と回復支援の在り方を取り上げた。摂食障害やドメスティックバイオレンスなど、広義の依存症に含まれる領域も取り上げ、現状とそこからの回復方法、介入支援の在り方をまとめた。本テキストは、研究成果をわかりやすい形で学生に伝えるという点で、大きな意義を有していると考えられる。 その他、学術的な成果を広く社会に還元するアウトリーチ活動として、依存症のサポートや依存症を取り巻く社会環境、摂食障害とそこからの回復、自信や自己肯定感を持ちにくい社会環境について等、5件の招聘講演を行った。講演の対象は、薬物依存者の家族、様々な生きづらさを抱えている多様な年代の男女と多様であった。
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