研究実績の概要 |
障害者の活動の制約や社会的不利益の解消は社会的に解決すべき課題であり,その課題には障害のある身体への否定的価値づけや障害者と健常者の身体的差異を考慮しない態度,それらの結果生じる自己抑制や自己否定感といった障害者の不利益経験の非制度的位相も含まれる.本研究の目的は,障害者の不利益経験の非制度的位相を解明し,地域の中でそれを共有し,その解消を図るうえで有効な技法の一つを提出することにある. まず,1970年代から80年代の世田谷における障害者運動の生成と展開の過程を分析した.世田谷の障害者たちは,介助を家族に依存しているため障害者の行動や生活に制約があること,及び障害者の運動と一般市民の間に壁があることを認識し,その課題解決のために家族以外の他人よる介助を受けながらアパート暮らしを実現することを目指す自立生活運動と障害者と地域住民が対等な立場で参加し,障害者への理解の促進を目指す,まちづくり運動を展開していた.二つの運動では,単に親元や施設以外の場所ではなく,住民と障害者が出会い,関係が形成される空間として,さらに障害者と住民の自発的な参加や学習により,介助を必要とする障害者が他人の介助を受けて生活し,参加することが可能な空間として,新たな地域像が構想された. 次に,障害者の不利益経験の非制度的位相の解消に取り組む障害者と健常者による芝居作り集団への参加観察を実施した.芝居作り集団による芝居作りの過程では,障害者・健常者メンバーが互いの対等性と差異を確認しながら,一人一人の異なる障害をめぐる経験や出来事,ならびに経験に関わる人物の行動や気持ち,それらを支える思考について,別の他者に伝えるために,各メンバーが自分の経験を対応させながら理解を深める「対話」がなされていた.この対話は,芝居作りという日常的な相互行為の場面とは異なる空間を実験的に構築することで実現していた.
|