研究課題/領域番号 |
25780346
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研究機関 | 東日本国際大学 |
研究代表者 |
新田 さやか 東日本国際大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (50584629)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会福祉関係 / ハンセン病問題 / 当事者性 / 福祉実践 |
研究実績の概要 |
今年度は韓国のハンセン病回復者(韓国では「ハンセン人」と呼ばれているため、以下「ハンセン人」と表記)の現状把握のため、ハンセン人の生活施設の聖ラザロ村、民間支援団体である韓国キリスト教ハンセン人宣教会(旧 韓国救らい協会)」、ハンセン人の当事者組織である韓国ハンセン総連合会に対する聞き取り調査の実施と、国内においては患者運動に携わった当事者への補充調査、国立療養所松丘保養園で開催された「松丘保養園の将来構想をすすめる会」総会への参加を通して、ハンセン病回復者の当事者性の現在について把握した。国による国立療養所への隔離収容政策がとられた日本とは異なり、韓国では1960年代以降、ハンセン人の生活困窮などの課題と社会的偏見の問題を抱えながらもハンセン人の地域での自活を進め、自立生活を可能とした定着村事業が行われた。定着村で生活するハンセン人たちは、かつて、近隣住民からの反発や嫌悪、子どもの教育問題など人権に関わる問題を経験し、ハンセン人自身は病気を理由に、またその家族はハンセン人の家族であることを理由に差別を受けてきた。調査では、ハンセン人の人権について、近年ではハンセン人と一般の人との境がなく生活が可能となっていること、医療の場においては一般病室で他の患者と一緒に入院生活ができること、飲食店や公共交通機関の利用における不便がないことなど、ハンセン人への差別や偏見はかつてよりも軽減されていることが語られた。しかしながら、定着村においては、定着村で生活していることや定着村について、周囲や自分の家族に話すことが現在でもためらわれるなど、未だに解決することが難しいハンセン人とその家族が抱える課題が語られた。地域での自活、子どもを産み育て、家族を築くことが可能であった韓国の定着村事業だが、当事者の立場からは必ずしも成功事例として捉えることができないという評価があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題としてあげていた韓国のハンセン病回復者に関わる調査については、当事者組織への聞き取り調査を通して定着村事業の取り組み、当事者組織の役割、人権に対する意識について把握したほか、民間の生活施設や支援団体に対して聞き取りを行い、現在の韓国のハンセン病回復者の生活状況、社会の側の反応、日本の植民地時代に行われた非人権的な処遇に対する韓国の人々の意識について把握し、韓国におけるハンセン病回復者の当事者性に関わる課題を見出すことができた。 また国内においては患者運動に携わった当事者へのこれまでの調査および補充調査を通して、社会から不在化されていたかれらの当事者性のあり様について、当時の社会状況と当事者の声を照らし合わせて把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査をふまえ、ハンセン病回復者の当事者性の不在について、長年にわたり継続された隔離収容政策のなかでかれらの当事者性の不在状況が重層化されてきたこと、そのことに対する福祉実践の関わりと課題を最終年度の報告としてまとめる。 また韓国ハンセン総連合会への聞き取り調査をふまえ、形成過程や現在の運営に特徴的な定着村を選定して実地調査を行い、韓国と日本におけるハンセン病回復者の当事者性の不在状況を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に予定していた韓国調査について、当該年度は調査の枠組みを精緻化することに計画を変更したことによるもの。調査の実施予定を平成27年度および平成28年度に変更したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に実施した韓国ハンセン総連合会への聞き取り調査をもとに、定着村の実地調査計画をたて、2017年2月頃をめどに実地調査を行い、調査旅費および現地での調査協力者(通訳)への謝金として使用する予定である。
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