研究課題/領域番号 |
25780350
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
川原 恵子 東洋大学, 社会学部, 講師 (70348308)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 女性 / ホームレス / ジェンダー / 社会福祉 / 若年層の貧困 / 社会的排除 |
研究概要 |
平成25年度については、女性ホームレスの実態を把握するために、文献・資料の蒐集及び読み込みを行い整理するとともに、多様な女性を支援するNPOや社会福祉法人等支援団体を中心にヒアリング調査を行った。女性のホームレスは、多様な諸相を持つために、特定の福祉制度・施設の利用対象になるというわけではなく、地域に存在する社会資源の影響を受けつつ、様々な福祉制度・NPO・病院等の現場に現れていた。切り口いかんで(「要保護女子」、「DV被害者」、「要保護児童の母」、「ホームレス」、「要保護児童(家出)」、「薬物/アルコール依存」者、「未受診妊娠(ハイリスク妊婦)」、「帰来先なし退院者」等)といった福祉制度の「対象」として捉えられる中で、その後の支援の内容・質も異なり、同じ「ホームレス(居所不安定・居所喪失)」状態であっても、全く異なる文脈で整理されていく(事例化されていく)ことが知見として得られた。 女性ホームレスに関しては、以上のように一つの福祉制度で対応をしているわけではないために、全体像の把握や実数等の把握が非常に困難である。今後は「女性」がなぜ国のホームレス対策とは別建てで対応されてきた(いる)のか、日本の社会構造やジェンダー・家族規範等を踏まえた上で社会福祉に内在するバイアス(規範)などを考察していきたい。 なお、今年度の研究を進めていく中で、福祉制度に乗らない(乗れない)層の存在を確認したことの意義は大きい。女性ホームレスは国際的にみても可視化されにくく、さらに日本では性サービス産業(援助交際・暴力団等による違法風俗を含む)が貧困女性の受け皿の一つとして黙認されているため、より一層捉え辛い側面を持つことが推察される。今年度の研究成果は、26年度に学会発表、投稿論文等により報告していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画書作成(申請)段階では、これまでの研究経過を踏まえ、把握可能な福祉施設利用者から女性ホームレスの全体像に迫ることが可能であるという仮説を立てていたが、福祉施設の利用者に関する支援者側へのヒアリングを続けるうちに当初の見立てには誤りがあり、福祉施設利用者は女性ホームレス全体の中でも一部であり、かつ偏りがあること、および当初の見立て以上に女性ホームレス(全体)の広がり・複雑さが見えてきた。特に性サービス産業(Survival sexを含む)と女性ホームレス(居所不安定な女性の貧困)との関わりについては、予想以上の深さがあることがわかってきた。25年度に起きたいくつかの事件等の背景を見ても、一般市場から排除される人々がアンダーグランドでの市場(女性の場合は性サービス産業・売春が多い)で生計を立てている中で起きていることが推察される(例えば、7月に発覚した、広島女子高校生集団暴行・遺棄事件等)が、そうした視点からの研究は未だ十分ではない。 そのため、女性ホームレスの全体像の把握のための関係機関へのヒアリングを継続しつつ、全体に占める福祉制度利用者の位置づけを再検討している段階である。 日本の女性ホームレス及び対ホームレス政策の研究は、研究蓄積が非常に少ない。さらに、そうした視覚が欠如しているために、縦割りの社会制度を基礎とする研究蓄積(例えば、若年女性のホームレス問題(家出少女)は児童福祉や青少年犯罪で研究され、未受診妊娠・飛込み出産と絡んで出てくる場合は保健・婦人科医療で研究されるなど)に埋没してしまっている。そこで、まずは女性ホームレスの全体と福祉制度・社会制度がそれにどのように絡まり合っているのかを丁寧に解きほぐしていくことが、本研究において何より重要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
日本の女性ホームレス(居所の不安定化した女性の貧困)は、多様な現場に出現しているが、現場でさえそのような人々の状態を「ホームレス」という視点から把握している訳ではなく、全体像がつかめない状況にある。今後は、女性ホームレスとして扱っているわけではないが、個々の制度の対象として出現していると捉えられる様々な調査や既存研究、実践現場の取り組みから全体把握へとつながる糸口を丁寧に整理していく。それとともに、学会発表等で積極的に他領域の研究者とディスカッションをしたりすることにより、啓発・意見交換をしていきたい。これに関しては、児童に対する「性虐待」の社会問題化への取り組みが参考になる。児童虐待が注目されていく中で、日本では性虐待への問題喚起が立ち遅れた経緯があり、その要因として現場にその視点が欠如しているために事実としては存在しても、適切な介入ができてこなかった、統計上もそのカテゴリに振り分けられることがなかった(ゆえに、日本には「非常に少ない」問題と解釈されてきた)という反省がある。 全体像と福祉制度利用者との関係がある程度整理できた段階で、日本の福祉制度に内在するジェンダーバイアスやなぜ貧困/社会的排除研究・ホームレス研究の中で女性の貧困(ホームレス)へのまなざしが抜け落ちてきたのかについて考察する。 当初、研究蓄積の厚い、男性を中心としたホームレス研究の枠組みを援用することを、本研究課題において強く意識していたが、その枠組みでは「女性ホームレス」の把握・分析は不十分であることが分かってきた。他方で、女性ホームレスは日本社会の構造の中から生じていることに間違いなく、社会一般の価値規範やジェンダー、それらを内在する福祉制度・社会制度が「女性ホームレス」の現れ方を強く規定している。そのような複雑な構図をまずは描ききることを本研究の中心課題としたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」にも記したとおり、関係機関へのヒアリングを進めていくなかで計画作成時の仮説の見込みに対する甘さが次第に判明してきたために、当初予定していたオーダーメード調査を一旦保留し、現在はヒアリング調査および関係する様々な研究資料の収集・読み込みを続けている。25年度はオーダーメード調査の調査費用の実施計画を挙げていたため、その分が未達成となっている。 今年度はヒアリングを継続するが、「居所不安定な女性の貧困」と関わる現場やそれらを対象とする研究領域の者と効率的にディスカッションや意見交換を行えるような会合を企画する。これは啓発の役割も担い、「ホームレス」状態という同じ問題としての認識が醸成されるよう働きかけていく。 また、質問紙調査等数量的に実証可能な調査を企画し、実施する(業者委託)ために、当初の企画を再考する。現段階としては、(1)ホームレス支援団体に対して、全国調査等では明らかとなっていない、女性(家族その他世帯を含む)への支援(シェルター等)の実態調査、(2)女性ホームレスの供給母体となる産業を明らかにするオーダーメード調査のいずれかを候補としている。
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