研究課題/領域番号 |
25780358
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
市瀬 晶子 関西学院大学, 人間福祉学部, 助教 (50632361)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナラティヴ / 対話的実践 / オープン・ダイアログ / 援助希求 |
研究概要 |
1 フィンランドにおける自殺予防の援助実践モデルの調査 フィンランド全国で自殺予防活動を展開している民間団体「フィンランド精神衛生協会」の開発部門のディレクターと実践者、ラップランド地方で急性期の精神疾患の患者に効果をあげている実践モデル「オープン・ダイアログ」の開発者にインタビュー調査を行った。その結果、フィンランドの自殺予防は、NGOの民間レベルではエンパワメントモデルが用いられており、自殺を精神障害の結果と見なす医学モデルに対して、自殺を人生の耐えられない状況の結果と見なし、診断を行わず、必要でなければ薬も使用せず、同じような状況にある人々のグループをアレンジしてグループディスカッションやピアサポートを提供したり、自殺企図を語って自殺をするという方法ではないもう一つの道を探していこうとするナラティブへの介入が行われていることが分かった。 2 大学生の自殺予防に向けた、悩みに対する対処行動の背景の分析 大学生の自殺予防の内容に何が必要とされているのかを探索することを目的として、大学生10名を対象に実施した「大学生の自殺予防教育プログラムに向けた悩みとその対処方法に関する調査」で得られたインタビュー・データを用い、大学生が日常生活で悩みを抱えたときにとる対処行動の背景にどのような個人的要因があるのか分析した。その結果、大学生が悩みを人に相談しにくい背景には、1)対人関係スキルの不足、2)悩むことは弱く、自分一人で解決することが強いという価値観、3) 親からの自立と親への依存のアンビバレンス、4)「自己完結」志向、5)人間関係の脆弱さ、6)相談機関へのアクセスの障壁等が見出された。これらから、大学生の自殺予防には、1)対人関係のスキルを培う、2)人に相談することに対する偏見を取り除く、3)他者に援助を求める力を育む等の必要性が考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は、ミクロの次元では自殺予防の援助実践研究、マクロの次元では公共福祉論における中間団体の役割の研究との2つの次元を対象として研究を計画していた。援助実践研究の方はフィンランドでの調査を行い、フィンランド精神衛生協会でのエンパワメントモデルの実践とラップランドでの「オープン・ダイアログ」の実践からは、従来の薬物療法だけでなく、ナラティブへの介入を用いた自殺予防の可能性が見出された。一方、自殺予防における中間団体の役割の研究は、当初、中間団体による実践の調査を通して国家レベルでの自殺対策を検討することを計画していたが、研究の焦点を絞るため本研究ではミクロの次元での援助実践の調査・研究を重点的に実施することとしたため当初の研究計画よりも遅れている。今後、マクロの次元での研究はフィンランドにおける自殺対策の一事例を対象とし、国、地方公共団体、中間団体がそれぞれどのように自殺予防を担っているのか明らかにしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ミクロの次元での自殺予防の援助実践研究は、うつ病への対話的ナラティヴ実践・理論に焦点をあて、次の3段階から調査研究を進めていく予定である。第1段階として、ナラティブセラピー(White 2004)、対話的リカバリー・モデル(Fisher 2012)、オープン・ダイアログ(Seikkula 2007)等の先行研究・実践を比較検討し、精神障害における対話的ナラティブ実践の枠組みを価値、理論モデル、実践技術の3つの視点から検討し、9月あるいは11月の学会で報告する。第2段階として、先行研究の検討から調査項目を作成し、フィンランドのラップランド地方で実践されているオープン・ダイアログの研究者・実践者に7月~9月の予定でインタビュー調査を実施し、実践者、当事者、家族の間での対話的実践のプロセスを明らかにする。第3段階として、先行研究の検討から明らかになった知見と、オープン・ダイアログの実践に関する研究者・実践者へのインタビュー調査から、価値、理論モデル、実践技術の3つの枠組みでうつ病への対話的ナラティヴ実践・理論を検討し、学会誌に投稿する予定である。また、マクロの次元での自殺対策の研究は、国、地方公共団体、中間団体がそれぞれどのような役割で自殺予防を担っているのかフィンランドの事例研究を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
フィンランド調査の予定を平成26年度に変更したため 平成26年度に計画しているフィンランドでの援助実践のインタビュー調査に使用する予定である
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