研究課題/領域番号 |
25780358
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
市瀬 晶子 関西学院大学, 人間福祉学部, 助教 (50632361)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 対話的実践 / オープン・ダイアローグ |
研究実績の概要 |
本研究は、自殺の問題を個人の問題に還元する個人モデルのアプローチではなく、問題を個人と環境との関係性の問題として捉え、関係性に介入していく福祉モデルでの自殺予防のアプローチを構築することを目的としている。そうした目的から本研究では、患者をとりまく社会的ネットワークを組織し、関係者が治療ミーティングを続けるという方法によって精神疾患の急性期に対応する「オープン・ダイアローグ」、対話を情緒・感情的危機からのリカバリーの原理と位置付ける「エモーショナルCPR」の2つの対話的実践を対象として、文献調査、開発者へのインタビュー調査、フィールド調査を行ってきた。 研究成果として、対話的実践をソーシャルワークの本質的要素である1)価値、2)知識、3)技術から分析し、自殺予防への示唆を得た。1)実践の基盤にある価値として、精神疾患や精神病的な行動は病気として捉えられておらず、「極限のストレスのかかる状況にあったら誰でもあり得る、まだ言葉を持たない行動」として捉えられていることが分かった。2)理論的枠組みとしては、コミュニケーションを基盤とする精神疾患へのアプローチの理論上に位置付けられ、社会構成主義、バフチンらによる対話理論が枠組みとなっている。3)援助技術としては、オープン・ダイアローグはシステム論的な心理療法を基盤としており、ニーズに適合したアプローチ、リフレクティング・チーム、コラボレイティヴ・ランゲージ・システムズ・アプローチの手法が用いられている。 意義として、急性期の精神疾患への対応として、患者をとりまく社会的ネットワークを組織し、そのメンバー間に幻覚や妄想についての新しい理解をつくる対話的実践のアプローチは、自殺予防においても、当事者をとりまく社会的ネットワークを構築し、自殺念慮や企図についての新しい理解を構築していくというアプローチとして援用できると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では27年度中に、国内で自殺企図のある人の支援を行っているNPO法人にて、社会的な関係から排除され他者との関係を失うという経験をもつ当事者、支援者にインタビュー調査の実施を終了する予定であったが、現在、所属機関の「人を対象とする行動学系研究倫理委員会」の承認を得て、調査項目の作成、NPO法人への依頼ができた段階であり、28年度中に調査の実施、分析を行う計画である。
|
今後の研究の推進方策 |
社会的な関係から排除され他者との関係を失うという経験をもつ当事者を対象としたインタビュー調査では、社会的関係を失ってしまったときに人の抱える根源的な痛み(スピリチュアルペイン)とはどのようなものなのか、人はそのような苦しみの中でどのように生きていくことができるのか、生きていく(生きていてもいい)希望はどのように生まれるのか、当事者の視点から関係性を通した自殺予防の支援を明らかにしていく計画である。 これまでに進めてきた、精神疾患を対象とした対話的実践のアプローチの調査から分析した、価値、知識、援助技術の体系と、社会的関係から排除されてしまった人がどのような支援を通して関係性を回復し、生きていく希望を見出すことができたのか、当事者の視点からの自殺予防を明らかにすることを通して、関係性に介入する福祉モデルでの自殺予防実践を構築する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では27年度中に、国内で自殺企図のある人の支援を行っているNPO法人にて調査を実施する計画であったが、実施が遅れ28年度に調査を行うため。 また、計画では27年度にNorth American Association of Christians in Social Workの年次総会にて研究成果を報告する計画であったが、研究成果の報告も28年度の予定となったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
国内で自殺企図のある人の支援を行っているNPO法人にて、社会的な関係から排除され他者との関係を失うという経験をもつ当事者、支援者にインタビュー調査を実施する予定であり、調査のための旅費、謝金に使用する。 また、11月に行われるNorth American Association of Christians in Social Workの年次総会にて研究成果を報告する予定であり、学会参加のための旅費に使用する予定である。
|