本研究は、社会的に排除された人々への中間団体による支援の調査を通して、(1)自殺予防の援助実践を明らかにすること、(2)公共福祉論の観点から中間団体の実践を検討し、ミクロ、メゾ、マクロの次元から自殺予防に向けた福祉的なインクルージョンのモデルを構築することを目的とした。研究実施計画では当初、日本、イギリス、フィンランドあるいはスウェーデンの中間団体の実践を調査する予定であったが、近年その効果が着目されていた「オープン・ダイアローグ」(以下ODとする)の実践に焦点を絞ることとし、当初の研究目的に対し、(1)オープン・ダイアローグの援助実践について、その理論的枠組みを明らかにした。(2)マクロの次元までの分析を進めることはできなかったが、ミクロ・メゾのレベルでODを自殺予防へ援用することに示唆を得た。 (1)これまでの自殺予防の主流である公衆衛生やメディカルモデル(薬物療法)のアプローチが自殺の原因について直線的な因果関係での説明を前提としているのに対し、ODは精神疾患やその症状として表現されている「その人の人生で困難な出来事をまだ言葉にできていないこと」を問題とみなし、患者、家族を含む社会的ネットワークのメンバーにあいだにダイアローグを立ち上げることにより、精神病的症状に新しい理解や意味をもたらすことを介入の枠組みとしていることが明らかになった。(2)①自殺を企図する人の問題を専門家が診断するのみならず、症状(問題)を理解し、対応を検討していくプロセス自体を本人・家族に開かれた対話のシステムにする、②これまでのモデルが想定してきたように問題を個人に還元するのではなく、その人の社会的ネットワーク作り、それを開かれた対話的関係するというODの介入枠組みは自殺予防においても意義を持ち、福祉的なモデルとして援用できるという示唆を得た。本研究の成果については論文として公表する予定である。
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