研究課題/領域番号 |
25780369
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
品田 瑞穂 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (70578757)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 協力行動 / 利他性 / 制裁行動 / 社会的ジレンマ / 公共財問題 / 集合罰 |
研究実績の概要 |
人間の社会と、ヒトを含む霊長類の社会を分ける最大の特徴の1つは、血縁関係や一対一の直接互恵性を超えた協力関係である。人間は信念や期待に基づく複雑かつ広範な協力関係を礎として大規模社会を形成している。それと同時に、人間がつくる社会組織の多くには、他者や集団に利益を供する協力者だけでなく、他者の協力にただ乗りし,利益のみを享受する非協力者があとをたたない。こうした「ただ乗り問題」を解決する鍵として、本研究は集団内の規範逸脱に対する制裁行動に着目し、制裁行動が人々を取り巻く社会生態学的環境への適応的反応として生起するメカニズムを検討する。すなわち、制裁行動の基盤には個々人にとって制裁を行う誘因を供給する社会的環境があるという前提のもと、集合罰(collective sanction)と集団内制裁の関係を明らかにする。集合罰とは、集団内に規範の逸脱が生じると集団内の誰か(あるいは全員)が連帯責任を取らされる制度である。日本における歴史的な事例としては江戸時代の五人組やそれを継承した隣組のほか、前近代ヨーロッパにおける共同体責任システム(Greif, 1997)など、類似する制度は世界中にみられる。このように集団全体が1つの運命共同体であると外部からみなされる場合、自らは規範を遵守していても内部に逸脱者がいれば自分に累が及ぶため、人々は内部の規範逸脱者に対し積極的に制裁行動をとるようになる。本研究はこのような集団罰と集団内制裁行動の相互規定関係によって集団内協力規範が維持されていることを、一連の調査と実験により明らかにする。本年度は昨年度の研究成果を基盤として、実験室実験によって行動指標を測定した。その結果、集合罰があることに加え,集団に明確な目標がある場合には集団内部の協力行動が促進され、規範逸脱者に対する批判が高まることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度は、まず研究代表者の所属大学の変更により、実験設備・実験参加希望者リストの構築を行った。次に25年度に行った調査・実験の成果を基盤として、集合罰がある場合には集団内部の制裁(サンクション)・協力行動が促進されるという中心的な仮説を、実験室実験により検討した。実験参加者は1人の外部メンバーから集合罰が与えられる可能性がある公共財ゲーム4人メンバーでプレイし、非協力的な集団メンバーに対してコストを支払って制裁行動を行うかどうかを決定した。前年度の実験結果より、明確な集団規範がない場合には集合罰の可能性があっても協力行動が促進されないことが示されたため、本実験では集団内規範の有無を操作した。具体的には、集合罰を与える外部メンバーが公共財の達成度に関する目標を明示する場合(集団規範明示条件)としない場合(集団規範非明示条件)を比較した。この実験の結果、どちらの条件でも集合罰の可能性があるにもかかわらず、明示的な集団規範がある条件では集団内の協力行動がより促進された。一方、集団内の制裁行動はどちらの場合もほとんど生じなかったため、仮説の一部は支持されなかった。ただし、前年度の研究結果と一貫して、明示的な集団規範がある条件では、非協力的な集団メンバーに対する批判は高まり、集合罰を与える外部メンバーに対する好意的な評価が増していた。 以上の研究成果より、本研究の仮説の一部を支持する結果が得られた。これらの成果は、今年度の国際学会において発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
3年目にあたる27年度の前半には、前年度の研究成果を補完する実験室実験を行う。上記の達成度にあるように、実験室実験においては、集合罰がある場合に協力行動が促進され、非協力者に対する批判的評価が高まったものの、制裁行動は促進されなかった。本年度はこの問題に取り組むため、日常生活において成員間に相互作用のある小集団を用いるなどリアリティを高める実験パラダイムを用いるなど修正を加えた上で実験を行う。後半には、前年度までの調査と実験により得られた知見の一般化可能性を検討するため、調査データの二次分析を行い、集合罰(連帯責任)が日常的に使われる社会では,集団内の規範逸脱に対する態度が厳しいことを検討する.集合罰の頻度は、仕事における集団的評価の程度などを指標として用いる。そして、実証的検討によって得られた均衡の頑健性を,コンピューター・シミュレーションを行って検討する。シミュレーションの土台としては、先行研究である集合罰の理論モデル(Greif, 1997; Heckathorn, 1988)などを用いる。 以上の仮説検討を進めつつ、その成果を適宜関連する学会や学会誌において発信していく。また実験および調査の実施において、適宜必要な人員(実験スタッフおよびデータ入力など)を短期支援員として雇用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に実施した実験において、実験参加者が当初予定していたよりも集まらなかったため次年度使用額が生じた
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次年度使用額の使用計画 |
26年度に実施した実験を補完する実験を今年度行うことによって使用する
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