本研究の目的は,集団間紛争における集団内力学の影響を解明することである。特に,集団内評判の視点から賞賛獲得と排斥回避が集団間紛争に及ぼす影響をそれぞれ検討していく。計画初年として本年度は,主に排斥回避の影響を検討した。排斥回避とは,攻撃を行わないことによる内集団からのネガティブな評価を避けようとすることである。つまり,“やらないと嫌われる”という排斥を回避するために消極的に行われる集団間攻撃を行うという側面を検討していく。この現象を検討するために,本研究では,日中関係を題材に,中国人と日本人の大学生を対象に相手国に対する態度を尋ねる調査を行い。その分析を行った。その結果,中国人においては,中国人の個人の私的対日態度と比較して,他の中国人の対日態度は否定的だと推測されていた。また他の中国人の前では,推測された他者態度と同程度に否定的な公的対日態度を表明しようとしていた。さらに,公的態度は推測された他の中国人の態度から大きく影響を受けていた。それに対して,日本人では,自他差としての多元的無知は見られたものの,他者への同調は見られなかった。これらの結果から,中国人は過度に知覚された反日社会規範へと同調し,ポジティブな態度を表出しない可能性が示唆された。この調査結果は,中国人が同じ中国人から嫌われないために反日態度を表出するという点で,集団内の排斥回避が集団間攻撃意図に結びつく一つの事例として解釈できるだろう。
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