本年度は,集団間紛争における集団内力学の影響を理解するために以下の研究を実施・報告した。まず,集団間感情に関するレビュー論文「“我々”としての感情とは何か? ―集団間紛争における情動の役割を中心に―」を執筆した。この論文では,集団間感情に関する社会心理学研究を概観した。それとともに,本研究課題である集団間紛争が集団内力学によって激化していくという側面に関して,集団間紛争に関する内集団成員どうしの集団内対話が,一種の集団極性化の過程によって激化していくという切り口から詳細な議論を行った。この論文は感情心理学会にて新たに発刊される論文誌に掲載予定である。また,社会心理学会大会でのワークショップでは,日中関係における多元的無知現象に関する話題提供を行った。九州心理学会大会では,外国との対立関係を日本人同士が議論することで,外集団の印象が低下するという実験結果を示した。これらの研究はともに,集団間紛争が集団内力学によって激化していくという側面を示しており,本研究課題が想定した理論モデルを支持する研究だといえる。翌年度はこれらの大会報告を論文化する作業を進めていく。さらに,前年度までの活動に基づいた論文「Perceived group identity of outgroup members and anticipated rejection: People think that strongly identified group members reject non-group members」が論文誌『Japanese Psychological Research』に掲載された。この論文では,集団間関係において,外集団成員の集団アイデンティティを強く感じられると,相手から見て外集団成員である自分が拒絶されることを予期する結果,その外集団の成員を好まなくなることを示した。
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