本研究では,日常の業務において本音を表出できないという事態を経験する頻度(論文投稿時に「本音の抑制イベント」を「本音の表出不能経験」と改称)とバーンアウト傾向及び失敗傾向がどの程度関連するのか検討することを第1の目的としていた。また,そのような経験の頻度はもともと本音を抑制しやすい(本音と表出にずれがある)個人に多いのか検討することを第2の目的としていた。さらに,代表的な感情労働の1つとして挙げられる看護職(ここでは看護師の他,助産師も含む)には上記について何か特徴があるのかという点についても調査した。 平成29年度は主に以下の3点について遂行した。1点目は,平成28年度までに実施して投稿中であった論文について引き続き査読者とやりとりをして掲載に至った。具体的には,世代を問わず全体的に伝統性という組織風土の影響で本音が表出しづらくなっていることが示された。2点目は,一般社会人と看護職との比較を行った。調査の結果,職種の違い自体が決定的な違いを生む要因ではないことが示唆された。ただし,バーンアウト傾向との関連については,看護職の方が本音の表出不能経験の影響を受けにくいことが示された。3点目は,実験により,潜在的態度(本音)に関係なく顕在的態度(表出)がポジティブであれば,職場で不服があっても表出できないという経験の頻度が少なく,バーンアウトの下位概念である情緒的消耗感が低いことが示された。 研究期間全体としては本音の表出不能経験について主に以下の成果があった。1点目は尺度を作成した点である。2点目は看護師と一般社会人の違いは尺度の得点ではなく影響過程にあることを示した点である。3点目は本音と表出のギャップの測定結果と日常業務の経験頻度の間に一部関連が見られることを示した点である。
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