最終年度は、前年度に収集した専門家-非専門家による評議場面でのコミュニケーションデータを整理し、コーディングする作業と、関連データ(専門家-非専門家によるコミュニケーションデータ)の再分析を行った。加えて、継続して検討している公正世界信念および公正推論の国際比較データを収集した。 評議場面でのデータに関しては、すべての会話を発話データに置き換え、評議中の専門家の発話と非専門家の発話比率などを算出した。関連データを対象とした再分析では、非専門家は、専門家や多数派の意見を参考に自らの判断を行うこと、評議に関する満足度には専門家に対する信頼の程度や、専門家や自分と同じ立場である非専門家との意見の相違などが影響することが示された。事件内容の理解も満足度を高めていたが、評議中の発言量とは関連が見られなかった。 公正世界信念および公正推論の国際比較データの分析からは、日本人がアメリカ人よりも不運な目にあった被害者に対する内在的公正推論(被害にあったのはその人が悪い人だから、という誤った推論)を行いやすいことが明らかになった。また、アメリカ人は日本人よりも、対象人物の道徳的価値(いい人か悪い人か)に関係なく、プラス方向の究極的公正推論(被害は将来的に埋め合わされて、回復するという推論)を行うが、道徳的価値の低い人物に対しては、アメリカ人よりも日本人のほうがマイナス方向の究極的公正推論(被害は将来的に埋め合わされることなく、さらに悪いことが起こるだろうという推論)を行うことが示された。そして、プラス方向の究極的公正推論には、宗教心の強さが関連することもあわせて明らかになった。 これらの研究を通して、刑事事件の被告人や被害者に対する法廷内・および法廷外での一般市民の判断傾向について、その一端を示すことができたと思われる。
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