研究課題/領域番号 |
25780382
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
山本 恭子 神戸学院大学, 人文学部, 講師 (50469079)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 表情 / コミュニケーション / 社会的文脈 / 対人感情 / 顔文字 / 視線 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,他者の感情表出に対する応答的反応の検討を通して,私たちの感情コミュニケーションを支える基礎的メカニズムを解明することである。先行研究において,協調的状況では他者と一致した表情(模倣反応)が,競争的状況では他者の表情に不一致な表情(拡散反応)が生じることが指摘されている。研究1では,競争または協調をプライミングされた実験参加者が,喜び,怒り,悲しみの表情に対してどのような表情表出を示すのか検討を行った。その結果,協調群の参加者は競争群より,刺激人物の好ましさを高く評価していた。協調群では刺激表情に一致する表情が,競争群では不一致な表情の表出が多く見られたものの,統計的に有意な差はなかった。 研究2では,二者間の会話場面における視線行動を,アイマークレコーダを用いて計測した。その結果,男性よりも女性の方がパートナーの顔に視線を向けやすい一方,パートナーの体への視線には性差が認められないことが見いだされた。古くから視線行動の性差について言及されているが,本結果はそれが顔への注意に起因することを示しており,本研究課題の扱う表情コミュニケーションにおいて考慮すべき点を明らかにした。 研究3では, CMC(Computer Mediated Communication)を用いて,顔文字の交換過程が対人感情に及ぼす影響を検討した。協調的な状況では,送信メールに顔文字を付与したのに,受信メールに顔文字が付与されていない場合に,ネガティブな対人感情が生起した。一方,非協調的な状況では,送受信メールにおける顔文字使用の一致性は対人感情に影響しなかった。対面の表情表出だけでなく,CMCの顔文字の交換においても,社会的文脈と表情の応答的反応との関連を見いだした点は,これまでの理論の適用範囲を拡大する重要な知見であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,他者の感情表出に対する応答的反応を調整する社会的要因を検討することで,私たちの感情コミュニケーションを支える基礎的メカニズムを明らかにすることである。本年度の研究1では,競争的か協調的かという社会的文脈のプライミングが表情の応答的反応に及ぼす影響を検討した。その結果,社会的文脈により表情表出者への対人感情に違いが生じることが明らかとなった一方,表情の応答的反応に明確な差は見いだされなかった。後者は,先行研究と不一致な結果であることから,先行研究の知見を修正すべきであるかについて,さらなる検討が必要である。 研究2では,二者間の会話場面における視線行動について,アイマークレコーダを用いて検討した。その結果,男女間でパートナーの顔に視線を向ける時間が異なることが明らかとなった。他者の表情表出に応答するには,まず顔に視線を向けることが不可欠であることから,本研究課題で扱う表情コミュニケーションにおいて考慮すべき点を明確にしたと言える。 研究3では,CMCのコミュニケーションを対象に,表情(顔文字)の一致性と対人感情との関係について検討を行った。その結果,協調的な状況においては,メール交換過程における顔文字の一致性が,ポジティブな対人感情につながる一方,非協調的な状況では,顔文字の一致性は重要視されないことが明らかとなった。これは,メールにおける顔文字の付与のような意図的なコミュニケーション場面においても,社会的文脈が表情コミュニケーションに影響する証拠を示したものと言える。無意識的な反射ではなく,コミュニケーションの意図が表情表出において重要であることを示唆するものと言えよう。 研究成果は学会で発表を行い,学術的な成果を学界へと発信することができた。今後の検討課題は残されているものの,重要な成果が得られていることから,本研究はおおむね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
他者の感情表出に対する応答的反応を調整する状況要因を明らかにするために,状況の競争性とパートナーの表情の種類が,表情の模倣・拡散反応に及ぼす影響を検討する。平成26年度は,競争・協力の社会的文脈のプライミングが,表情の応答的反応に及ぼす影響を検討した。その結果,文脈により表情刺激人物の印象は異なっていたが,表情表出への影響は明白でなかった。後者は先行研究と不一致な結果であったことから,この結果が先行研究の知見を修正する妥当なものであるかについて,さらなる実験により検討する。本年度の実験では,2人1組による実験を行い,パートナーとの競争・協力関係の操作により,表情の応答的反応やパートナーの印象が変化するかを検討する。この方法により,前年度のプライミング手続きと異なり,表情表出者に対する競争性を直接的に操作できると考えられる。 平成26年度の研究で興味深い結果が得られた,CMCにおける顔文字の交換過程についても引き続き検討を行う。本年度は,中立的状況を用いて,送・受信メールの顔文字の一致性が対人感情に及ぼす影響について,場面想定法による質問紙調査を実施する。表情模倣に関する先行研究から,中立的状況でも協調的状況と同様に,顔文字使用が不一致な場合に,メール相手への対人感情がネガティブになると考えられる。さらに,CMCでの実際のコミュニケーション過程を観察するため,二者間で実際にCMCでのメッセージ交換を行ってもらい,顔文字の交換過程についてデータを収集する。CMCでの感情表出にも注目することで,表情表出の意図的な側面に焦点を当てることができると考えられる。 これまでの研究成果は論文にまとめ,学会誌への投稿を行う。さらに,25年度から27年度までの研究結果を総合し,状況を調整要因とした表情の応答的反応に関する新たなモデルの構築を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的に実験を実施することができたことで,実験に要する時間が見込みよりも短くなり,実験補助者に対する謝金が少額で済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の研究から当初の計画にはなかった実験や調査の必要性が生じたことから,その実験補助者に対する謝金や,実験の実施や解析に必要な消耗品の購入にあてる。
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