ニホンザルに見られる寛容性の個体差と地域差を検討する上で、「8m実験」と呼ばれる給餌実験は有用である。この実験では、直径8mの円内に決まった量の小麦をまき、円内で小麦を拾った個体数と円内で生じた敵対的交渉の数を記録する。本年度は、これまで対象としてきた勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)、淡路島ニホンザル集団(兵庫県洲本市)に加え、銚子渓ニホンザル集団(香川県小豆郡土庄町)で行った8m実験の結果を報告した。直径8mの円内に入った個体数は、淡路島集団と小豆島集団ではかなり多く、勝山集団と比較すると、割合で3倍近い値を示した。敵対的交渉は小豆島集団でかなり頻繁に生起し、敵対的交渉が少なかった勝山集団や淡路島集団と比較すると、4倍近い生起頻度を示した。これらの結果は、給餌時に個体同士が凝集できるという点において小豆島集団と淡路島集団のニホンザルは寛容な性質を示すこと、小豆島集団は凝集した際に高頻度で敵対的交渉が生起する一方で、淡路島集団では凝集性が高くなっても敵対的交渉が生じにくいことを示している。これらの結果は、1970年代に行われたKoyama et al.(1981)と同様の傾向を示すものであり、それぞれのニホンザル集団の特性が30年以上経過しても維持継承されていることを示している。
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